「北鎌フランス語講座 - 文法編」と連動し、短い例文を使って徹底的に文法を説明し、構文把握力・読解力の向上を目指します。

フランス語の詩の文法解説

「動作」      ⇒ 「詩と歌」のトップに戻る

このページで取り上げるのは、20 世紀初頭に活躍した詩人 Jules Supervielle (ジュール・シュペルヴィエル)の « Mouvement » (「動作」)という詩です。
Gravitations (『引力』)と題される詩集に収められています。
有名な詩なので、ご存知の方も多いかもしれません。

Ce cheval qui tourna la tête
Vit ce que nul n'a jamais vu

Puis il continua de paître
À l'ombre des eucalyptus.

Ce n'était ni homme ni arbre
Ce n'était pas une jument
Ni même un souvenir de vent
Qui s'exerçait sur du feuillage.

C'était ce qu'un autre cheval,
Vingt mille siècles avant lui,
Ayant soudain tourné la tête
Aperçut à cette heure-ci.

Et ce que nul ne reverra,
Homme, cheval, poisson, insecte,
Jusqu'à ce que le sol ne soit
Que le reste d'une statue
Sans bras, sans jambes et sans tête.




以下では、改行せずに普通の文のように行をつなげ、文頭が大文字になっている場合は(文中なら)小文字に直し、必要に応じてコンマやピリオドを補います。

Ce cheval qui tourna la tête vit ce que nul n'a jamais vu.

「Ce」は指示形容詞。ここでは、「その」という意味がぴったりです。
「cheval」は男性名詞で「馬」。
「qui」は関係代名詞。先行詞(Ce cheval)が関係詞節内の動詞(tourna)の意味上の主語なので、関係代名詞 qui を使っています。

「tourna」は tourner の単純過去(3人称単数)。第 1 群規則動詞なので a 型の活用になります。 tourner は、ここでは他動詞で「回す、回転させる」。
「現在の状態とは関係のない、一回きりの過去」なので「単純過去」を使っています。
「tête」は女性名詞で「頭」。
「tourner la tête」で「頭を回す、振り返る」という意味です。

「Ce cheval qui tourna la tête (頭を回したその馬)」全体が、この文の中で大きな主語になります。

「vit」は、vivre (生きる)の現在と voir (見る)の単純過去が単数形でまったく同じ形になるので、文脈で判断するしかありませんが、ここでは他動詞 voir (見る)の単純過去(3人称単数)。ここも「一回きりの過去」です。

ce は関係代名詞の先行詞になると「...なもの」「...なこと」という意味になり、「ce que」は英語の what に相当します

「Nul ne...」で「いかなる人も...ない」「何人(なんぴと)も...ない」という意味。この「nul」は「personne」で置き換え可能です。
もうひとつ、「ne... jamais」は「決して...ない」
基本的に、nul も jamais も否定の ne とセットで使われるわけです。

「a」は助動詞 avoir の現在(3人称単数)。「vu」は他動詞 voir (見る)の過去分詞
「a vu」で avoir + p.p. なので voir の複合過去です。

先ほど出てきた「tourna (回した)」と「vit (見た)」は、「その馬」が行った一回きりの動作なので、単純過去が使われていました。
それに対して、ここで複合過去が使われているのは、「~したことがある」という意味で、英語の現在完了の「経験」に相当するからです。

【逐語訳】
振り返ったその馬は、誰も決して見たことがないものを見た。

Puis il continua de paître à l'ombre des eucalyptus.

「Puis」は接続詞で「ついで」。
「il」は「Ce cheval (その馬)」を指します。
「continua」は continuer (続ける)の単純過去(3人称単数)。これも第 1 群規則動詞なので a 型の活用をします。ここでは、

  continuer de + inf. (~し続ける)

という使い方をしています。「de + inf.」が直接目的になるので、他動詞です。

「paître」はここでは自動詞で「(草食動物が)草を食(は)む、牧草を食べる」という意味。「continuer de」の後ろなので、不定詞になっています。

「ombre」は女性名詞で「影」ですが、「à l'ombre de ~」で「~の影で」という意味の前置詞句。この最後の de が les と縮約されて des となっています。

「eucalyptus」はもともと s で終わる単語で、植物名で「ユーカリ」。末尾の s も発音して「ユーカリプチュス」と発音します。似た発音の言葉に、

  cactus (サボテン) 発音:カクテュス
  prospectus (広告のちらし) 発音:プロスペクテュス

などがあります。
フランス語では語尾の s は読まないのが普通ですが、 -us で終わる単語はむしろ「ュス」と発音するのが普通です。
( us という語尾は、ラテン語の男性名詞の語尾です。ラテン語そのままの綴りでフランス語に入っている場合に、このように「ュス」と発音します)。

【逐語訳】
ついで、その馬は、ユーカリの陰で草を食み続けた。

Ce n'était ni homme ni arbre.

指示代名詞 ce は、漠然と「それ」という意味。ここでは、その馬が見たものを指します。
ce は前に出てきた具体的なものを指すのではなく、特定化される以前の段階で使用します。ここでも、その馬が何を見たのか、まだ具体的には何もわからないので ce を使っています(実は、この詩の最後に至るまで、それが何なのかは明かにされないのですが)。

「était」は être (~である)の半過去(3人称単数)。
過去の状況説明・情景描写なので半過去を使っています。

ni A ni B ne... で「A も B も ... ない」「ne」は「ni A ni B」より前にくることも、後ろにくることもあります)。
この ni A ni B という表現では、A と B は無冠詞になる確率が高くなります。
これは、A と B が「対比」されるからだと思われます(ただし、必ず無冠詞というわけではありません)。
「homme」は「人、人間、男」、「arbre」は「木」。どちらも男性名詞です。

【逐語訳】
それは人でも、木でもなかった。

Ce n'était pas une jument, ni même un souvenir de vent qui s'exerçait sur du feuillage.

この文では、ni が 1 回しか出てきません。「ni A ni B」を使うなら、

  Ce n'était ni une jument, ni même un souvenir...

と書き換えることも可能です。
ただ、ここでは「Ce n'était pas une jument. (それは一匹の牝馬ではなかった)」だけでも完結した文になっており、これにコンマ以下の部分を付け足した感じになっています。このように、「ni A ni B」という表現は、1 回目の ni を省略して普通の否定文として一旦文を完結させ、 2 回目の ni だけ使って「~でもない」という意味にすることもできます。

「jument」は「牝馬」。cheval は広義には「馬」一般を指し、狭義には「牡馬」を指します。

un cheval (馬)
un cheval (牡馬)une jument (牝馬)

例えば homme が「人」一般を指すのに、 femme (女)と対比させて使うと「男」の意味になるのと同じです。

「même」は「同じ」ではなく、「~さえ」
「souvenir」は男性名詞で「記憶」。「vent」は男性名詞で「風」。
「un souvenir de vent」で「風の記憶」となります。ちょっと詩的な表現ですが、「風の名残り」というような意味でしょう。

「qui」は関係代名詞。
「exerçait」は他動詞 exercer (及ぼす)の直説法半過去(3人称単数)。 commencer と同じ活用をする動詞なので、語尾 a, o の前では c にセディーユがついて ç となります
exercer を辞書で引くと「及ぼす」という意味が載っています。例えば、

  exercer une influence sur ~ (~に影響を及ぼす)

というように、前置詞 sur とセットで使います。図式化すると、

  exercer A sur B (A を B に及ぼす)

となります。この A が再帰代名詞になると、

  s'exercer sur ~ (自分を~に及ぼす→~に及ぼされる)

となります。再帰代名詞がつくことで、自動詞的・受身的な意味に変換されています。
「~に及ぼされる」というのは、「~に作用する」と言ってもよいでしょう。

「feuillage」は -age で終わるので男性名詞です。

  une feuille は「(一枚の)葉」
  le feuillage は「(一本の木全体の)葉」

を意味します。
feuillage は単数形でありながら、実際には複数の葉を指す「集合名詞」です。普通は定冠詞がつきますが、ここでは部分冠詞 du を使っています。部分冠詞をつけることで、一本の木「全体」の葉ではなく、一本の木の「一部」の葉を示すことになります。

【逐語訳】
それは一匹の牝馬ではなかったし、木の葉に作用していた風の記憶でさえもなかった。

C'était ce qu'un autre cheval, vingt mille siècles avant lui, ayant soudain tourné la tête, aperçut à cette heure-ci.

この文ではコンマに挟まれた挿入句が 2 つ挟まっています。
挿入句を順に見ておきましょう。

最初の挿入句は「vingt mille siècles avant lui」で、時を示す状況補語になっています。
「vingt」は数詞で「20」、「mille」は数詞で「千」なので、「vingt mille」で「2 万」です。
「siècle」は男性名詞で「世紀」。
「avant」は前置詞で「~の前に」ですが、avant の前に時間を表す言葉を置くと、「~の ...前に」となります(反対語の après と同様)。
ここでは、「vingt mille siècles avant ~」で「~の 2 万世紀前に」となります。
「lui」は前置詞の後ろなので強勢形で、「Ce cheval (その馬)」を指します。
全体で「その馬の 2 万世紀前に」となります。

2 つ目の挿入句は「ayant soudain tourné la tête」です。前後にコンマがあり、avoir の現在分詞である「ayant」で始まっているので、分詞構文だとわかります。
「soudain」は副詞で「突然」。副詞は複合時制の場合は、助動詞と過去分詞の間に置くのが一般的です。
「tourné」は他動詞 tourner (回す)の過去分詞。さきほども出てきたように、「tourner la tête」で「頭を回す、振り返る」という意味
「ayant soudain tourné la tête」で「突然振り返って」となります。
分詞構文の意味としては、単純接続または継起に分類されます。

以上の 2 つの挿入句を除くと、次のようになります。

  C'était ce qu'un autre cheval aperçut à cette heure-ci.

文の要素で分けると、「C'」(それは)が主語、「était」(~であった)が動詞、「ce qu'un autre cheval aperçut à cette heure-ci」が属詞で、全体として第 2 文型です。
「ce qu'...」以下の部分を詳しく見ると、まず「qu'」は関係代名詞。
ce は関係代名詞の先行詞になると「...なもの」「...なこと」という意味になり、「ce que」は英語の what に相当します
「autre」は形容詞で「他の」。
「aperçut」は他動詞 apercevoir (見る、ちらっと見る)の単純過去(3人称単数)。
「à」は場所または時間を表す前置詞で「~に」。
「cette」は ce の女性単数の形で、英語の this, that に相当します
「heure」は女性名詞で「時間、時刻」。
その後ろについている「-ci」は、「cette」が英語の this の意味で使っていることをはっきりさせるためのものです。

【逐語訳】
それはもう一匹の馬が、その馬の 2 万世紀前に、突然振り返って、この時刻に見たものであった。

Et ce que nul ne reverra, homme, cheval, poisson, insecte, jusqu'à ce que le sol ne soit que le reste d'une statue sans bras, sans jambes et sans tête.

この文は、接続詞「Et (そして)」の後ろに、前の文で出てきた「c'était (それは~であった)」が省略されていると受け取れます。

「nul」はさきほど出てきた「nul ne...」で「誰も...ない」
「reverra」は語尾を見ればわかるように単純未来。 revoir (再び見る)の単純未来(3人称単数)です。

その後ろは 4 つ名詞が列挙されています。
「homme (人間)」、「cheval (馬)」、「poisson (魚)」、「insecte (昆虫)」。いずれも男性名詞ですが、列挙のため無冠詞になっています。この 4 つの名詞は、「nul」を具体的に説明する例として挙げられています。
ここまでを逐語訳すると、「そして(それは)人間も馬も魚も昆虫も、誰も見ることがないであろうもの(であった)」となります。

「jusqu'à ce que...」は「...するまで」という意味の熟語表現です(辞書で jusque を引くと載っています)。この「...」の部分に節(=小さな S + V を含むグループ)がきて、その中の動詞は接続法になります。そのため、ここでは être の接続法現在(3人称単数)の「soit」が使われています。

「sol」は男性名詞で「土、土壌」。似た意味の女性名詞の terre (地面、地球)よりも即物的に「土」という感じの言葉ですが、訳しにくいので「地表」としておきます。
「ne... que ~」は「~しか ...ない」。接続法の「soit」を直説法の est に置き換えると、n'est que ~で「~でしかない、~にすぎない、~にほかならない」の 3 通りの訳が可能です。
この「~」の部分に相当するのが、「que」の後ろ全部(文末まで)です。

「reste」は男性名詞で「残り」という意味。ここでは「残骸」と訳してみましょう。
「statue」は女性名詞で「彫像」(彫刻で彫られた像)。
「sans」は英語の without に相当する前置詞。
「bras」は男性名詞で「腕」。「jambe」は女性名詞で「脚」。腿の付け根から下を意味します(足首より下は男性名詞 pied を使います)。「tête」は女性名詞で「頭、頭部」。
いずれも sans の後ろなので無冠詞になっています。

「sans bras, sans jambes et sans tête (腕もなく脚もなく頭部もない)」というのは、要するに「胴の部分しかない」ということです。美しい調和の取れた形を失い、無残な「土くれ」のようになった地球の姿が連想されます。

【逐語訳】
そしてそれは、地表が腕もなく脚もなく頭部もない彫像の残骸でしかなくなるまで、人間も馬も魚も昆虫も、誰も見ることがないであろうものであった。

この詩が印象的なのは、馬が振り返って見たものが具体的に何なのか最後まで語られないため、その振り返って見た空間にぽっかり穴が開いたまま、欠落が埋められることがなく、しかもそれが(おそらく人類滅亡後の)荒涼とした地球の光景と二重写しになっている点にあると言えるでしょう。



補足

Le monde a commencé sans l'homme et il s'achèvera sans lui.

これは、この詩とはまったく関係ないのですが、この詩を読むといつも思い出してしまうので、紹介しておきます。いわゆる構造主義の文化人類学者、クロード・レヴィ=ストロースの Tristes tropiques (邦訳:『悲しき南回帰線』または『悲しき熱帯』)の巻末近くに出てくる有名な一文です。

【単語の意味】
「monde」は男性名詞で「世界」。
「a」は助動詞 avoir の現在(3人称単数)、「commencé」はここでは自動詞 commencer (始まる)の過去分詞なので、合わせて commencer の複合過去。
「sans」は前置詞「~なしで」。「homme」は「人間」。

「il」はもちろん前に出てきた男性名詞を指しますが、ここでは「Le monde (世界)」も「l'homme (人間)」も男性名詞です。しかし「il」は主語なので、意味が変にならない限り、前の文に出てきた主語を指すと取るのが自然です。つまり「Le monde」を指します。

「achèvera」は他動詞 achever (終える)の単純未来(3人称単数)。再帰代名詞 se がつくことで「自分を終える」→「終わる」というような自動詞的な意味に変化します。
「lui」は前置詞の後ろなので強勢形で、「l'homme (人間)」を指します。

【逐語訳】
世界は人間なしで始まった。そして世界は人間なしで終わるだろう。

「sans l'homme (人間なしで)」というのは、「人類が存在しない状態で」という意味です。

「天地創造」で始まって「最後の審判」で終わるキリスト教の世界観とは全く違った、人類学者ならではの視点による人類滅亡後の光景が眼前に広がり、軽いショックを覚えるかもしれません。











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