「北鎌フランス語講座 - 文法編」と連動し、短い例文を使って徹底的に文法を説明し、構文把握力・読解力の向上を目指します。

フランス語の熟語の文法解説

熟語表現

このページでは、単に丸暗記するだけでは正しく文意を把握しにくい熟語を取り上げ、文法的に掘り下げて解説します。


valoir mieux : 「ほうがいい」

【項目の説明】
valoir (価値がある)は不規則動詞。
valoir は、その意味からして「物」が主語になることが多く、3 人称単数で多く用いられます。直説法現在の 3 人称単数は vaut です。
ちなみに、過去分詞は valu で、これが英語に入って value (価値)という単語ができています(フランス語で「価値」は女性名詞 valeur です)。

valoir は自動詞ですが、後ろに数量表現がきて、次のような使い方をします。

  A vaut B. (A は B の価値がある)

「A」に「物」、「B」に「数量」がきますが、「B」は直接目的語ではなく(動作を及ぼす対象ではないため)、むしろ属詞に近いといえるでしょう(ほぼ A = B になります)。例えば、

  Ce chapeau vaut dix euros. (この帽子は 10 ユーロの価値がある)

この文では、「Ce chapeau (この帽子)」と「dix euros (10 ユーロ)」の間に、ほぼイコール関係が成り立ちます。

さて、valoir は副詞 bien (良く)の比較級 mieux と一緒に使うことがよくあります。

  A vaut mieux que B. (B よりも A のほうがいい)

もともと「A は B よりも価値がある」という意味ですが、「B よりも A のほうがいい」という意味でよく使われます(辞書で valoir を引くと、熟語欄の valoir mieux などの項目に載っているはずです)。

これは、次のように倒置にしても同じ意味です。

  Mieux vaut A que B. (B するより A するほうがいい、B より A のほうがいい)

「mieux」を文頭に出したことで、それにつられて動詞「vaut」も前に来て、倒置になったと考えられます。
A と B の部分には「動詞の不定形」がくるのが一般的ですが、副詞や名詞(または名詞相当の語句)がくる場合もあります。

非人称の il (後出の名詞を指す仮主語の il)を用いて、次のように言っても同じです。

  Il vaut mieux A que B. (B するより A するほうがいい、B より A のほうがいい)

「Il」が「仮主語」で、 A が「意味上の主語」です。

最後の 2 つ、「Mieux vaut A que B.」と「Il vaut mieux A que B.」は、特に諺でよく使われます。例えば、

  ⇒ Mieux vaut prévenir que guérir.
  ⇒ Mieux vaut tard que jamais.
  ⇒ Mieux vaut tenir que courir.
  ⇒ Il vaut mieux être seul que mal accompagné.

どちらかというと、「A」「B」に入る言葉が短い(一語だけの)場合は「Mieux vaut A que B」のほうが使われる頻度が高く、長くなると「Il vaut mieux A que B」のほうが比較的よく使われる傾向があるようです。おそらく、長くなると「Mieux vaut」という短縮表現を使うメリットないし魅力が薄れるからでしょう。

なお、「B よりも」という「比較の対象」を明示しない場合は、次のようになります。

  Il vaut mieux ~. (~するほうがいい)

この「~」の部分には原則として「動詞の不定形」がきます。
valoir を条件法にした表現もよく使われます。

  Il vaudrait mieux ~. (~するほうがいいでしょう)

vaudrait は valoir の条件法現在条件法は「語調緩和」の意味があり、断言を避ける婉曲なニュアンスが出ます。「~するほうがいい」ではなく、「~するほうがいいでしょう」「~するほうがいいのではないでしょうか」という感じになります。

例文
Un remords vaut mieux qu'une hésitation qui se prolonge.

【例文の説明】
A vaut mieux que B.」という表現が使われています。
A に相当するのが「Un remords」、 Bに相当するのが「une hésitation qui se prolonge」。
「remords」は男性名詞で「後悔」。もともと「mordre (噛む)」という動詞に、「再び」を意味する接頭語 re- がついてできた言葉で、「何度も噛む」ことから「後悔」の意味になっています。
「hésitation」は女性名詞で「躊躇、ためらい」。「qui」は関係代名詞で、「qui se prolonge」がカッコに入り(関係詞節となり)、前の先行詞「une hésitation」に掛かっています。
「prolonge」は他動詞 prolonger (長引かせる)の現在(3人称単数)。その直接目的が再帰代名詞「se」なので、「se」は「自分を」という意味になり、「自分を長引かせる」→「長引く」となります。つまり、 se は他動詞を自動詞的な意味に変換する働きをしています。

【逐語訳】
「長引く躊躇よりも、後悔のほうがいい」

【文意】
いつまでも優柔不断でいるよりも、さっさと決断してあとで後悔したほうが、まだましだ、という意味。

【出典】
Henry de Montherlant, La Reine morte (1942)

rendre A B : 「A を B (という状態)にする」

rendre は「返却する」などの意味もありますが、ここで取り上げるのは第6文型をとる動詞としての rendre です。
基本的には A の所に名詞、 B の所に形容詞がきて、「A を B という状態にする」という意味になります。
文型でいうと、「S + V + OD + C」の「OD」のところに A 、「C」のところに B がきて、 A と B の間にほぼイコール関係が成り立ちます。
この A と B は、かなりの確率で順序が逆になります倒置の場合と同様、 A にくる言葉が長い場合は、ほとんど逆になり、また特に長くなくても、名詞で文を終えたほうが引き締まった文になるため、よく逆に置かれます。
例えば、次の表現では A と B が逆の順序になっています。

  rendre possible l'impossible (不可能なことを可能にする)

「possible」は「可能な」という形容詞。接頭語 im- は形容詞につく場合は「否定」を意味するので、「impossible」で「不可能な」。これに le がつくと le + 形容詞で「~なこと・~なもの」となります。
英語だと make がこのような意味・使い方をしますが、フランス語の rendre に由来する render という言葉も使われます。

例文
La tâche de la peinture est définie comme la tentative de rendre visibles des forces qui ne le sont pas.

【例文の説明】
「tâche」は「務め、仕事」で、「La」がついているので、もちろん女性名詞。
ちなみに、アクサン・シルコンフレクスがない tache は「染み、汚れ」という全く別の単語です。
「peinture」は「絵画」。「est」は être (~である)の現在(3人称単数)。
「définie」は他動詞 définir (定義する)の過去分詞 défini に女性単数の e がついた形。主語の「La tâche de la peinture」(一語で言うと「tâche」)が女性名詞の単数形なので e がついています。「comme」は、ここでは前置詞で「~として」〔英語 as〕。
définir は次のような使い方をする動詞です。

  définir A comme B (A を B として定義する)

この A が直接目的なので、受動態にする時は A を主語にして、

   A est défini comme B (A は B として定義される)

となります。この文では、A に相当するのが「La tâche de la peinture (絵画の務め)」、 B に相当するのが「la tentative de rendre visibles des forces qui ne le sont pas」(一語で言うと「la tentative」)です。

女性名詞「tentative」は「試み」。これは他動詞 tenter (試みる)に由来する言葉で、

  la tentative de ~ (~という試み)

という意味。
「visibles」は形容詞 visible (目に見える)の複数形。「forces」は女性名詞 force (力)の複数形。
その前の「des」は、その前に名詞(に相当するもの)が存在しないため、前置詞 de と定冠詞 les の縮約形〔英語の of the〕と取ることはできません。つまり、この des は不定冠詞の複数の des です。
「qui」は関係代名詞。先行詞が「des forces」です。「qui」の前から文末までがカッコに入ります(関係詞節となります)。
「sont」は être (~である)の現在(3人称複数)ですが、その前の「le」は何かというと、フランス語には全部で 3 種類の le があり、「どこに置くか」・「何を指すか」で区別可能です。ここでは繋合動詞 être の前に置かれているので、前に出てきた形容詞を指す中性代名詞の le です。前に出てきた形容詞というと、「visibles」しかありません。つまり、この部分は le を使わないと次のように言い換えられます。

  des forces qui ne sont pas visibles (目に見えない力)

さて、項目の rendre A B (A を B にする)で言うと、A に相当するのが「des forces qui ne le sont pas」、 B に相当するのが「visibles」です。

【逐語訳】
「絵画の務めは、目に見えない力を目に見えるものにする試みであると定義される」

【出典】
Gelles Deleuze, Logique de la sensation

devoir A à B : 「A を B に負っている」

【項目の説明】
devoir は普通は「~しなければならない」という意味の助動詞(正確には準助動詞)ですが、ここでは本動詞で、辞書で devoir を引くと後半部分にこの意味が載っています。
A を B に負っている」「A なのは B のお蔭だ」という意味でよく使います。
英語の owe A to B に似た意味です。
devoir の過去分詞 dû や受動態については、「動詞の活用編」の devoir の項目で解説しています。

例文
L'appareil de photo doit beaucoup de sa séduction au diaphragme à iris.

【例文の説明】
「appareil」は男性名詞で「装置、器具」。「photo」は女性名詞で「写真」。
「appareil de photo」全体で男性名詞扱いとなり、「写真機、カメラ」の意味。
「doit」は devoir の現在(3人称単数)。
「beaucoup de~」は「多くの~」ですが、「~の多く」と訳すこともできます。
「séduction」は女性名詞で「誘惑、魅力」。その前の「sa (その)」〔英語の its に相当〕は「L'appareil de photo」(男性名詞)を指しますが、所有形容詞は直後の名詞に合わせて変化するので、直後の「séduction」に合わせて女性単数になっています。
「au」は à と le の縮約形

「diaphragme」は「横隔膜、隔膜・仕切り板」などの意味がありますが、ここでは(写真機や顕微鏡などに組み込まれている、光の量を調節するための)「絞り」。「iris」は最後の s も発音する男性名詞で、(眼球の)「虹彩」、「虹色」、(植物の)「アヤメ」などの意味。「diaphragme à iris」で「虹彩絞り(=アイリス絞り)」〔英語 iris diaphragm〕ですが、単に「絞り」と言うのが一般的です。

「devoir A à B 」の A の部分に相当するのが「beaucoup de sa séduction」、B の部分が「au」を à と le に分解したうちの le をつけた「le diaphragme à iris」です。

【逐語訳】
「カメラは、その魅力の多くを絞りに負っている」
(カメラが魅力的なのは、その大部分が、絞りのお蔭だ)

【出典】
Michel Tournier, Petites Proses (随筆集)
原文では、「diaphragme à iris (絞り)」の後ろにに関係代名詞 qui がついて長くなっているので、その前までを引用しました。元の文は次の通りです。

  L'appareil de photo doit beaucoup de sa séduction au diaphragme à iris qui ajoute au trou rond de l'objectif un organe délicat, subtil et d'une vivante ingéniosité.
  逐語訳:「カメラは、その魅力の多くを、微妙で繊細で生きているような創意工夫に富んだ装置をレンズの丸い穴に付け加える絞りに負っている」

ここでは ajouter A à B (A を B に付け加える)の「A」の部分(un organe... ingéniosité)が長いので後回しになり、ajouter à B A という順で出てきています。

avoir beau + inf. : 「~しても無駄だ、いくら~しても」

【項目の説明】
「inf.」は「不定詞」という意味です。
普通は「beau」は形容詞で「美しい」という意味ですが、ここでは前後に名詞がないことからもわかるように副詞で、「美しい」というよりも「たいそうな、ご立派な」などの皮肉・反語に近い意味だと思われます。しかし完全に熟語化しており、知らないと文意を推測するのが困難な表現となっています。日常会話でもよく使われます。訳は、

  1. ~しても無駄だ。
  2. いくら~しても、 

の 2 通りを覚えておくと役に立ちます。
例えば『新スタンダード仏和辞典』には次のような例文が載っています。

  J'ai beau crier, il n'entend rien.

「ai」は avoir の現在(1人称単数)。「crier」は自動詞で「叫ぶ」。「entend」は他動詞 entendre (聞こえる)の現在(3人称単数)。「ne... rien」で「何も ...ない」〔英語 nothing〕。上の 2 通りの訳し方を当てはめると、次のようになります。

  1. 私が叫んでも無駄だ。彼は何も聞こえない。
  2. いくら私が叫んでも、彼は何も聞こえない。

この 2 の場合、前半部分は「譲歩」の意味に受け取ることができます。

このように、まず「avoir beau + inf.」を使った文を述べてから、コンマを打ち、その後ろに結論を述べる文を置きます。
形の上では、2 つの文をコンマでつないだ「重文」ですが、あたかもコンマの前までが従属節で、コンマの後ろが主節であるかのように意識されます。

例文
L'instant de la mort a beau être éloigné de celui de la naissance, la vie est toujours trop courte quand cet espace est mal rempli.

【例文の説明】
コンマの前までを見ると、「instant」は男性名詞で「瞬間」。「mort」は女性名詞で「死」。「L'instant de la mort」で「死の瞬間」となります。
次の「a beau être」でこの項目の表現が出てきています。もし「a beau」を省くと、コンマまでは次のようになります。

  L'instant de la mort est éloigné de celui de la naissance.

この文をベースに見ていきましょう。
「celui」は英語の that に相当する指示代名詞で、ここでは「L'instant (瞬間)」を指します。「naissance」(女性名詞)は「誕生」なので、「celui de la naissance」で「誕生の瞬間」となります。
「éloigné」は他動詞 éloigner の過去分詞。この動詞は、もともと

  éloigner A de B (A を B から遠ざける)

という使い方をし、A が直接目的なので、受動態にする場合は直接目的を主語にして

  A est éloigné de B (A は B から遠ざけられる)

となります。「遠ざけられる」の代わりに「遠ざかっている、離れている」(動作の結果の状態)とも言えます。
ここでは、A が「L'instant de la mort (死の瞬間)」、B が「celui de la naissance (誕生の瞬間)」に相当するので、「死の瞬間は誕生の瞬間から離れている」となります。要するに「長生きする」ということです。
この文に「avoir beau」が組み合わさっているわけです。

コンマの後ろを見ると、「vie」は女性名詞で「人生」。「est」は être の現在(3人称単数)。「toujours」は副詞で「つねに」。「trop」も副詞で「あまりにも、~すぎる」〔英語 too〕。「courte」は形容詞 court (短い)の女性形。
「la vie est toujours trop courte」で「人生はつねに短すぎる」となりますが、「toujours trop (つねに~すぎる)」を抜かせば、次のようになります。

  La vie est courte. (人生は短い)

元の文に戻ると、「quand」は接続詞「...なとき」〔英語 when〕。「cet」は指示形容詞で「この」。「espace」は男性名詞で「空間」。「cet espace (この空間)」とは、ここでは具体的には「死の瞬間」と「誕生の瞬間」を隔てる空間(つまり空間として捉えられる時間)を意味します。
「mal」は副詞で、辞書を引くと最初に「悪く」と載っていますが、質ではなく量として「十分に...ない」という意味でもよく使われます(辞書の少し後ろのほうに載っています)。「rempli」は他動詞 remplir (満たす)の過去分詞。「est rempli」で受動態です。
「cet espace est mal rempli」で「この空間は悪く満たされている」というよりも「この空間は十分に満たされていない」、つまりスカスカである、要するに「充実した人生を送っていない」という意味でしょう。

【訳】
1. 死の瞬間が誕生の瞬間から離れていても(=長生きしても無駄である。この空間がうまく満たされない場合は(=充実した人生を送らない場合は)、人生はつねに短すぎる。

2. いくら死の瞬間が誕生の瞬間から離れていても(=いくら長生きしてもこの空間がうまく満たされない場合は(=充実した人生を送らない場合は)、人生はつねに短すぎる。

【出典】
Jean-Jacques Rousseau, Émile ou De l'éducation (1762)

n'avoir rien à voir avec ~ : 「~とは無関係だ」

【項目の説明】
これは、辞書で voir を引くと載っている熟語表現ですが、もともとどういう意味なのか、確認しておきましょう。
「ne... rien」で「何も... ない」。「rien」は英語の nothing に相当する代名詞ですが、英語と違って ne と一緒に使います。
「voir」は他動詞で「見る」。
その前の前置詞 à は、英語の to と同様、後ろに不定詞がくると「~すべき」という意味になります。例えば『ロワイヤル仏和中辞典』で à を引くと、後半に「不定詞を伴って」という項目があり、次のような例が載っています。

  maison à vendre (売り家)

これはもともと「売るべき家」という意味で、女性名詞 maison (家)が他動詞 vendre (売る)の直接目的になっています。

項目の熟語に戻ると、「avec」は前置詞で「~とともに」。

つまり、全体を逐語訳すると、「~とともに見るべき何物も持たない」というのが元の意味です。これで熟語化し、「~とは(まったく)関係がない、~とは無関係だ」という意味になります。

この熟語は、英語の have nothing to do with ~ (~とは無関係だ)と似ています。フランス語では voir (見る)を使うのに、英語だと do (する)を使うだけの違いです。

例文
La littérature n'a rien à voir avec la richesse du vocabulaire, sinon le plus grand des chefs-d'œuvre serait le dictionnaire.

【例文の説明】
「littérature」は女性名詞で「文学」。
「richesse」は女性名詞で「豊かさ、豊富さ」。
「du」は前置詞 de と定冠詞 le の縮約形
「vocabulaire」は男性名詞で「語彙」。
コンマの前まででいったん文は意味的に完結しています。

「sinon」は si (もし)と否定を表す non がくっついてできた言葉〔つまり英語の if not 〕で、「もしそうでなかったら」という意味。
「plus」の前に定冠詞がついているので、最上級です。「grand」は形容詞で「大きな、偉大な」。
「des」は de と les の縮約形(英語の of the に相当)。
「chefs-d'œuvre」の単数形は chef-d'œuvre (傑作)。もともと「chef」は男性名詞で、料理店の「シェフ」という意味だけでなく、一般に「トップ(の地位にある人)」という意味でよく使われます。「œuvre」は女性名詞で「作品」( œ は単に o と e がくっついた文字)。つまり、もともと「作品のトップ」というような意味です〔英語の masterpiece 〕。
chef-d'œuvre 全体で男性名詞扱いとなり、複数形にする場合は chef だけに s をつけます。発音は少し例外的で、「chef」単独だと f も発音して「シェフ」となりますが、「chef-d'œuvre」となると f を読まずに「シェドゥーヴル」となります。

この「le plus grand des chefs-d'œuvre」は、「文法編」の「もうひとつの付加的用法」に記載されている「le (la) plus 形容詞 des 名詞」を使った最上級の表現です。「最も大きな傑作、最大の傑作」となります。

「serait」は être の条件法現在(3人称単数)。現在の事実に反する仮定です。「si + 直説法半過去」に相当する部分が「sinon (もしそうでなかったとしたら)」一語に凝縮されています。
「dictionnaire」は男性名詞で「辞書」。

【訳】
文学は語彙の豊富さとは無関係だ。そうでなければ、最大の傑作は辞書ということになるだろう。

【出典】
Paul Léautaud

à peine : 「かろうじて...程度だ」「ほとんど... ない」

【項目の説明】
もともと「peine」は女性名詞で「苦痛」「苦労」「罰」という意味。熟語なので無冠詞です。
前置詞「à」は英語の with に近い意味で、「à peine」で「苦痛とともに」→「やっとの思いで」「どうにかこうにか」「ぎりぎり」「かろうじて」というような意味になります。
辞書で peine を引くと、熟語として「à peine」は「ほとんど... ない」という意味が載っていますが、ほかにも色々な意味があり、この熟語は「かろうじて」という訳で意味・感じをつかむと、応用範囲が広がるでしょう。
「à peine」を「かろうじて」と訳したら、文末に「...程度だ」または「...ぐらいだ」という言葉を補うと、こなれた日本語になります。
「à peine」は「程度にほとんど差がない状態」を意味します。ここから、「ほとんど... ない(も同然だ)」という意味に取ることも可能です。
「かろうじて...程度だ(...ぐらいだ)」と訳して、ぎこちなければ、「ほとんど... ない」と訳してみてください。
「à peine」のそれ以外の意味については、追ってこのページで追加していきますが、一番の基本は「かろうじて」です。

例文
Pour moi, en effet, les rêves ont à peine plus de sens que les formes des nuages.

【例文の説明】
前置詞「Pour ~」は「~にとって」。「Pour moi」で「私にとって」となります。「moi」は前置詞の後ろなので強勢形です。
その後ろは、「en effet」が挿入句なのでコンマで挟まれています。「en effet」は熟語で、前の文を受けて「実際」という意味〔英語 in fact〕。
「rêve」は「夢」(ここでは睡眠中に見る夢)。末尾 -e で終わりますが、男性名詞です。いろいろな夢を見るので複数形になっています。
「ont」は他動詞 avoir (持つ)の現在(3人称複数)。

「sens」は男性名詞で「方向・方角、感覚、意味」。英語の sense (感覚、意味)と意味が重なります。ここでは「意味」という意味です。
この単語は最後の s も発音するので注意してください。 s を発音しないと、前置詞 sans (~なしに)〔英語 without〕とまったく同じ発音になってしまいます。これと区別する意味でも、「sens」は必ず末尾の s を発音します。

「plus de 名詞 que ~」は名詞の比較級で「~よりも多くの〔名詞〕」、「~以上の〔名詞〕」。
「forme」は女性名詞で「形」(「フォルム」と発音します)。英語の form は「フォーム」ですが、フランス語に由来する外来語の「フォルム」は、おそらく美術用語として日本語に入ったのでしょう。
「nuage」は「雲」。これも末尾 -e で終わりますが、男性名詞です。「les formes des nuages」で「雲の形」。

【訳 1 】
「かろうじて...程度だ」を使った訳:
「私にとって、実際、夢は雲の形よりもかろうじて多くの意味を持つ程度だ

【訳 2 】
「ほとんど... ない」を使った訳:
「私にとって、実際、夢はほとんど雲の形以上の意味を持たない

(本来、雲の形というのは意味がないものであるが、夢はそれよりも、かろうじて多くの意味を持つ程度だ。どんぐりの背比べのようなもので、ほとんど同程度だ。ほとんど雲の形以上の意味を持たないも同然だ

【出典】
Roger Caillois, L'incertitude qui vient des rêves
原文では、「les formes des nuages (雲の形)」の後ろに「ou les dessins des ailes des papillons (または蝶の羽の模様)」という言葉がついていますが、単純化するために省略しました。

A est à B ce que C est à D. : 「B にとっての A は、D にとっての C だ」

【項目の説明】
2 回出てくる前置詞「à」は、ここでは「~にとって」「~に対して」という意味で、pour と同じような意味です。
「est」は être の現在(3人称単数)。「que」は関係代名詞で、「ce」は関係代名詞の先行詞になると、「...なもの」「...なこと」という意味

「que」の後ろを細かく文の要素に分けると、最後の「à D」は付け足しの要素なので除外するとして、「C」が主語、「est」が動詞、そしてこれが繋合動詞なので、属詞が先行詞「ce」となっています。つまり、この関係代名詞 que は、先行詞が直接目的ではなく、先行詞が属詞となる que です。
そして、大きく見ると、「A」が主語、「est」が動詞、「ce que C est à D」全体が属詞となっています。

全体を直訳すると、

  「A は B にとって、 C が D にとってそうであるところのものである

もう少し縮めて言うと、

  「A は B にとって、 C が D にとってのものである

さらに意訳すると、

  「B にとっての A は、D にとっての C に等しい

となります。
要するに、「A と B との関係」と「C と D との関係」とをアナロジー(類比)によって対比させているわけです。

これは、ちょっと落語の「謎掛け」に似ています。

  「B に対する Aと掛けて、D に対する C と解く。その心は...

という感じです。
実際、このフランス語の表現のあとで、「その心は...」に相当する言葉を置く場合が少なくありません。「どちらも~です」という感じです。

例文
La superstition est à la religion ce que l'astrologie est à l'astronomie, la fille très folle d'une mère très sage.

【例文の説明】
「La superstition」は「迷信」、「la religion」は「宗教」、「l'astrologie」は「占星術」、「l'astronomie」は「天文学」。いずれも女性名詞です。そのため、後半で出てくる親子関係の比喩では、父と息子ではなく「mère (母)」と「fille (娘)」に喩えられています。
「très」は副詞で「非常に」〔英語 very〕。「folle」は形容詞 fou (気違いの)の女性形。「sage」は形容詞で「賢い」。

「la fille très folle d'une mère très sage (非常に賢い母の非常に気が狂った娘)」の部分は、文法的には「superstition (迷信)」または「astrologie (占星術)」と同格とも言えますが、事実上、一旦この前で文が終わっていると取ったほうがすっきりするでしょう。コンマをコロン(:)に置き換えると、わかりやすくなります。上の【項目の説明】の最後で触れた、謎掛けの「その心は...」「どちらも~です」に相当します。

【逐語訳】
「宗教にとっての迷信は、天文学にとっての占星術に等しい。非常に賢い母の非常に気が狂った娘。」

【出典】
ヴォルテール『寛容論』(Voltaire, Traité sur la tolérance (1763)
18 世紀の啓蒙思想家ヴォルテールは、(現代から見ると無邪気すぎるほどに)迷信や占星術のことを非常に馬鹿にしています。

直前の文全体と同格になる「ce + 関係代名詞」

【項目の説明】
「ce」が先行詞になると、「...なこと」という意味になりますが、この「ce + 関係代名詞」が直前の文全体と同格(つまりイコール)になる場合があります。
この場合、「ce」の前まででいったん文が完結したあとで、その後ろに添えるように「ce + 関係代名詞」を置きます
これは、「...なこと」の部分が、文全体の中で主語や目的語などの役割を果たさず、どこにも掛からずに、いわば「浮いている」ことで見わけがつきます。
辞書では、「ce」を引くと、関係代名詞の先行詞として、「前文を受けて」(『ロワイヤル』)
または「前文の同格」(『小学館ロベール』)などとして記載されています。

例文 1
Les enfants jouissent du présent, ce qui ne nous arrive guère.

【例文の説明】

「enfants」は enfant (子供)の複数形。
「jouissent」は第 2 群規則動詞 jouir の現在(3人称複数)。これは jouir de ~(~を享受する、~を楽しむ)という使い方をする間接他動詞です。
「du」は前置詞 de と定冠詞 le の縮約形
「présent」は「出席している」などの意味の形容詞もありますが、ここでは前に定冠詞 le がついているのでわかるように、男性名詞で「現在」。
「Les enfants jouissent du présent」で「子供たちは現在を楽しむ」となり、これだけで文が完結しています。
文の要素に分けると、「Les enfants」が主語(S)、「jouissent」が動詞(V)、「du」を de と le に分けたのうちの「le présent」が間接目的(OI )で、第 4 文型です。

次に、コンマの後ろを見ると、「ne... guère」は「ほとんど... ない」
「arrive」は arriver (到着する)の現在(3人称単数)。ただし、「到着する」のほかに、「起こる」という意味でもよく使います。これは主語が「人」か「出来事」かで見分けられます。

  〔人が〕 arriver à 場所 「~に到着する」
  〔出来事が〕 arriver à 人 「~に起こる」

この例文では、関係代名詞 qui が使われており、qui を使うのは先行詞が「関係詞節内の動詞の主語」である場合なので、「arrive」の主語は「ce」です。「ce」は先行詞になると、「...なこと・もの」という意味になるので、「arrive」の主語は「出来事」ということになり、 arriver は「起こる」の意味になります。
「前置詞 à + 人」は、代名詞に置き換わると間接目的一語になり、 à は消えるので、この例文では「à + 人」が間接目的「nous」になっています。

さて、「ce qui ne nous arrive guère」の部分は、逐語訳すると「私たちにはほとんど起こらないこと」となります。これが、「Les enfants jouissent du présent (子供たちは現在を楽しむ)」という直前の文全体と同格になっています。つまり、「子供たちは現在を楽しむ」、そのことイコール「私たちにはほとんど起こらないこと」なわけです。

【逐語訳】
「子供たちは現在を楽しむ。これは私たちにはほとんど起こらないことなのだが。」

この「例文 1 」は、17 世紀後半のフランス文学の古典、ラ・ブリュイエールの『人さまざま』(Jean de La Bruyère, Les Caractères ) (1688) の中の有名な文を、少し単純化し、一般によく使われる形に直したものです。
ラ・ブリュイエールの元の文は、次の「例文 2 」のようになっています。

例文 2
Les enfants n'ont ni passé ni avenir et, ce qui ne nous arrive guère, ils jouissent du présent.

この文は、接続詞「et (そして)」を挟んで大きく 2 つの文で構成されています。
そして 2 つ目の文の直前に、コンマとコンマに挟まれた挿入句の形で、「ce + 関係代名詞」が置かれています。

「et」の前までの単語を見ておくと、「ont」は他動詞 avoir (持つ)の現在(3人称複数)。
「ni A ni B ne...」は「A も B も ... ない」。この「ne...」の部分は「ni A ni B」の前にくることも後ろにくることもあります
ni は後ろが無冠詞になりやすい言葉です。「対比」に近いからでしょう。ただし、定冠詞はつく場合もあるので、「ni le passé ni l'avenir」と言うことも可能です。
「et」の前までは、「子供たちは過去も未来も持たない」となります。

さて、「ce + 関係代名詞」は普通は文の直後に置くので、この例文は次のように書き換えることも可能です。

  Les enfants n'ont ni passé ni avenir et ils jouissent du présent, ce qui ne nous arrive guère.

こうすると、「子供たちは過去も未来も持たず、現在を楽しむ。これは私たちにはほとんど起こらないことなのだが。」とう感じになりますす。

ただ、これだと、「ce qui」以下が「Les enfants... du présent」全体と同格(つまり「子供たちが過去も未来も持たず、現在を楽しむこと」イコール「私たちにはほとんど起こらないこと」)だと受け取られてしまう可能性が高くなります。そうではなく、「ils jouissent du présent」だけと同格(つまり「現在を楽しむこと」イコール「私たちにはほとんど起こらないこと」)であることを明確にするために、あえて「et」の後ろに挿入句として、「ils jouissent du présent」の直前に置いたと考えられます。
つまり、ラ・ブリュイエールの元の文では、「et」の後ろだけで見ると、先に「ce + 関係代名詞」を持ってきて、コンマを打ち、その直後の文全体と同格になっているわけです。

【逐語訳】
「子供たちは過去も未来も持たず、私たちにはほとんど起こらないことなのだが、現在を楽しむ。」

【文意】
子供は過去の思い出や後悔に浸ることがなく、未来の心配もせず、無心になって今の遊びに熱中するが、大人は後先のことを考えずに思い切って現在だけを楽しむということが、なかなかできないものだ、という意味でしょう。

Il y en a qui... : 「...する人々がいる」

【項目の説明】
「en」には 3 種類の en がありますが、ここの en は動詞の直前にあるため、中性代名詞の en です。そのうちの「中性代名詞 en その 2 :不特定の同類の名詞を指す en 」に相当します。ただし、この en は前の文に出てきたものを指すのではありません。前に出てきていないものを代名詞に置き換えるというのは、文法の規則から外れますが、熟語表現なので仕方ありません。

この en は「人々」という意味です。
ちなみに、フランス語で漠然と「人々」を意味する単語は gens です。これは男性名詞ですが、複数形でのみ使われる少し特殊な単語で、いわば漠然と「人は」を意味する不定代名詞 on の複数のような位置づけです。ここで問題になっている en は、この gens に似た意味です。冠詞をつけるなら、不定冠詞の複数 des をつけて des gens となります。

辞書・参考書では、例えば『スタンダード仏和辞典』で en を引くと、「表現されない des gens に代わる」と記載された項目があります。また『ロワイヤル仏和中辞典』で avoir を引くと、最後のほうの il y a の項目の熟語欄の「il y en a qui」のところに「en は des gens の意」と記載されています。また『新フランス文法事典』 p.193 にも「表現されていない des gens に代わり得る」と書かれています。

この表現は、en を使わないと、

  Il y a des gens qui... (...する人々がいる)

と書き換えることが可能です。
「des gens」が先行詞で、これに「qui...」が掛かっています。
この「gens」はもともと漠然と不特定な「人々」を意味する言葉なので、不特定のものを代名詞に置き換える場合には中性代名詞の en を使いますen に置き換わると動詞の直前に移動しますが、このとき、不定冠詞の複数 des は後ろに残らず、必ず消えます。そのため、「Il y en a qui...」となるわけです。

この表現には、いくつかバリエーションがあります。
まず、副詞 beaucoup (たくさん)をつけて、

  Il y en a beaucoup qui... (...する人々がたくさんいる)

と言ったり、逆に peu (ほとんど... ない)をつけて、次のように言うこともあります。

  Il y en a peu qui... (...する人々はほとんどいない)

「peu」は un peu だと「少し」〔英語 a few, a little〕という肯定的な意味ですが、peu 単独だと「ほとんど... ない」〔英語 few, little〕という否定的な意味になります。

これらは、「文法編」で出てきた「Oui, il y en a deux.」などの表現に似ています。
「deux (2 つ)」という数詞の代わりに、数量を表す「beaucoup (たくさん)」や「peu (ほとんど... ない)」をつけているわけです。

また、形容詞 autre (他の)の複数形を使って次のように言うこともあります。

  Il y en a d'autres qui... (...する他の人々がいる → ...する人々もいる)

これは「en」を使わないで書き換えると次のようになります。

  Il y a d'autres gens qui...

この「autres」の前の「d'」は、「複数の形容詞+複数の名詞」の前では、不定冠詞 des は de になるという規則によるものです。

さらに、Il y a ~ の代わりに Il est ~ を使っても同じ意味になるため、以上挙げてきた表現はすべて Il est ~ を使って言うこともできます。

Il y a を使用Il est を使用意味
Il y en a qui...Il en est qui......する人々がいる
Il y en a beaucoup qui...Il en est beaucoup qui......する人々がたくさんいる
Il y en a peu qui...Il en est peu qui......する人々はほとんどいない
Il y en a d'autres qui...Il en est d'autres qui......する他の人々がいる
→ ...する人々もいる

先行詞の en は意味的に複数(人々)なので、qui の後ろの動詞はすべて3人称複数 になります。

また、peu (ほとんど... ない)はほとんど「否定」と同じなので、主節が否定文の場合は関係詞節内の動詞は接続法になるという規則が適用され、peu を使った場合のみ、qui の後ろの「...」の部分の動詞が接続法になります。

例えば『ロワイヤル仏和中辞典』で peu を引くと、「ごく少数の人々」という意味のところに Il en est peu qui... を使った例文が載っており、「...」の部分が接続法になっています。

例文
Il y en a qui reviennent et d'autres qui ne reviennent pas.

【例文の説明】
「reviennent」は接頭語 re を省くと viennent となり、これは自動詞 venir (来る)の現在 (3人称複数)です。
つまり「reviennent」の不定形は revenir で、re (再び) + venir (来る) = 「戻ってくる」という意味になります。
接続詞「et (そして)」の後ろには il y en a が省略されており、

  il y en a d'autres qui...

と同じだと理解することができます。

【逐語訳】
「戻ってくる人々もいれば、戻ってこない人々もいる」

【出典】 Jean Delheure, Vivre et mourir à Ouargla
ちなみに、この直前の文では、次のように「Il y en a beaucoup qui...」が使われています。

 Il y en a beaucoup qui quittent Ouargla et vont dans d'autres pays, à Tunis ou Alger.
 (ワルグラを離れて他の土地、チュニスやアルジェに行く人々がたくさんいる)

他の例文 1他の例文 2

Quant à ~ : 「~についてはどうかというと」

この表現は、話題を転換するときに使われ、必ず文頭に置かれます。
接続詞の quand (...するときに)と間違えないように注意してください(末尾の一文字違いです)。語末の d と t は(原則として)発音しないため、単語単独での発音は同じですが、「Quant à ~」は必ず t の後ろでリエゾンします。前置詞 à は後ろに定冠詞の男性(単数・複数)がくると縮約形になるため、次の 3 つの形があります。

  Quant à ~ (発音:カンタ)
  Quant au ~ (発音:カントー)
  Quant aux ~ (発音:カントー)

à の後ろには名詞相当の語句がくるため、「Quant à (au, aux)」は前置詞句です。

例文
Le sel gemme a fait pendant des millénaires l'objet d'un commerce qui occupait d'immenses caravanes de chameaux à travers le continent africain. Quant au sel marin, ...

【例文の説明】
「sel」は男性名詞で「塩」。「gemme」は普通は女性名詞で「宝石」ですが、「sel gemme」で「岩塩」という意味になります。
「a」は助動詞 avoir の現在(3人称単数)。「fait」は faire (する、作る)の過去分詞。「a fait」で faire の複合過去です。
「pendant」は前置詞で「~の間」〔英語 during 〕。「millénaire」はここでは名詞で「千年」。その前の不定冠詞の複数 des は、ここでは「多くの」という意味
「pendant des millénaires」で「何千年もの間」という意味になります。
こうした「期間」を示す言葉と一緒に使う場合は、複合過去は「~してきた」と訳すとうまくいきます
「objet」は男性名詞で「物、対象」という意味ですが、ここは、

  faire l'objet de ~ (~の対象となる)

という、よく使われる熟語です(辞書の「objet」の熟語欄に載っています)。
ここまでで、「岩塩は、何千年もの間、~の対象となってきた」となります。

「commerce」は男性名詞で「商売、取引、交易・貿易」などの意味。
「qui」は関係代名詞で、qui... africain までがカッコに入ります(関係詞節になります)。
「occupait」は他動詞 occuper (〔場所を〕占める、〔仕事が人を〕従事させる)の直説法半過去(3人称単数)。

その後ろの「d'」は冠詞の de で、「複数の形容詞+複数の名詞」の前では、不定冠詞 des は de になるという規則によるものです。
「immenses」は形容詞 immense (巨大な、広大な)の複数形。ここでは、「長々と続く」と訳してみましょう。「caravanes」は女性名詞 caravane (キャラバン、隊商)の複数形。
「chameaux」は男性名詞 chameau (駱駝)の複数形。

「travers」はもともと s で終わる男性名詞ですが、単独で使われることは少なく、一番よく使われるのがここに出てきた前置詞句「à travers (~を通じて、~を横切って)」〔英語 across 〕。
「continent」は男性名詞で「大陸」〔英語と綴り同じ〕。「africain」は形容詞で「アフリカの」。「le continent africain」で「アフリカ大陸」です。
「marin」は形容詞で「海の」。「sel marin」で「海塩」(岩塩の対語)。

【逐語訳】
「岩塩は何千年もの間、アフリカ大陸を横断する長々と続く駱駝のキャラバンを従事させてきた取引の対象となってきた。海塩についてはどうかというと、...」

【出典】
Michel Tournier, Le moroir des idées

à + inf. : 「~すべき」

前置詞 à は場所の移動や到着点を表し、日本語の「~に」に近い意味になるのが基本ですが、それは後ろに名詞がくる場合です。
後ろに不定詞がくると、「べき」という意味になります。

1. 名詞 + à + inf.

「à + inf.」が直前の名詞にかかる形です。
この場合の不定詞は必ず他動詞です。
直前の名詞は、意味的に不定詞の直接目的になります。
例えば、

名詞 + à + inf.ベースにある表現
a le problème à résoudre
  (解決すべき問題)
 résoudre le problème
  (問題を解決する)
b le rôle à jouer
  (果たすべき役割)
 jouer le rôle
  (役割を果たす)
c le chemin à suivre
  (辿るべき道)
 suivre le chemin
  (道を辿る)

英語なら次のようになるでしょう。

名詞 + to + inf.ベースにある表現
a the problem to resolve resolve the problem
b the role to play play the role
c the path to follow follow the path


「名詞 + à + inf.」を使った上の表現は、それぞれ次のように言い換えられます。

  a. le problème qu'on doit résoudre
    (人が解決しなければならない問題)

  b. le rôle qu'on doit jouer
    (人が果たさなければならない役割)

  c. le chemin qu'on doit suivre
    (人が辿らなければならない道)

「qu'」は関係代名詞 que (次に母音がきたときの形)。
「On」は漠然と「人は、人が」という意味。訳さなくてもかまいません。
「doit」は devoir (~しなければならない)の現在(3人称単数)。

このように devoir を使って言い換えられるのでわかるように、「à + 不定詞」という表現には基本的に「義務」や「責任」の意味が含まれます。
ですから、日本語の「べき」という感じがぴったりです。

次の 2 と 3 の項目も、devoir を使って書き換えることが可能です。

2. être à + inf.

不定詞の前では à は「べき」という意味になるのが基本なので、「être à + 不定詞」は「~すべきである」という意味に近くなります。
より厳密には、この表現は、前の項目 1. の名詞と à の間に、両者をイコールでつなぐ être が入ったと考えることができます。

例えば、

  Ce chemin est à suivre.

これは「この道は辿るべきである」と訳しても日本語では通じますが、他動詞「suivre」の意味上の直接目的は、やはり「Ce chemin」であり、辿られる「物」の側が主語になっているわけですから、つまりこれは受動態と同じような表現だといえます。ですから、むしろ「この道は辿られるべきである」という感じに近いでしょう。つまり、次のように言いかえることができます。

  = Ce chemin doit être suivi.
    (この道は辿られなければならない

つまり、

  être à + inf.devoir être + p.p.

だと言うことができます。
同様に、

  Ce problème est à résoudre.
  = Ce problème doit être résolu.
    (この問題は解決されるべきである

  Ce rôle est à jouer.
  = Ce rôle doit être joué.
    (この役割は果たされるべきである

3. avoir à + inf.

à が「べき」だとすると、直訳すると「~すべく持っている」となりますが、ここから「~しなければならない」という意味になります。つまり、

  avoir à + inf.devoir + inf.

と言うことができます。
ちょうど英語の have tomust と同じ意味になるのと同じです。

例えば、『ロワイヤル仏和中辞典』で à を引くと、四角の B (「不定詞を伴って」)の 2 に次のような例文が載っています。

  J'ai à finir mes devoirs.
    (私は宿題を終えなければならない

この「devoir」は男性名詞で「宿題」という意味です(よく複数形で使います)。
これは次のように言い換え可能です。

  = Je dois finir mes devoirs.

4. 形容詞 + à + inf.

上の 1. の変形として、facile (容易な)、difficile (困難な)、agréable (心地よい)などの形容詞を à の前に置く場合もあります。この場合、à + inf. は、いったん形容詞を介して名詞に掛かります。例えば、

  le problème facile à résoudre (解決するのが容易な問題)
  le rôle agréable à jouer (果たすのが心地よい役割)
  le chemin difficile à suivre (辿るのが困難な道)

ただし、こうした形を取りやすい形容詞は限られているので、

  facile à ~ (~するのが容易な)
  difficile à ~ (~するのが困難な)
  agréable à ~ (~するのが心地よい)

というように、facile, difficile, agréable が à と一緒に使う形容詞なのだとして、à とセットで覚えれば済む話です。ですから、重要なのは上の 1. ~ 3. の形だということになります。

A pour B : 「B するために A する」、「A して B する」

前置詞「pour」は、辞書を引くと「ために」という意味が載っています。後ろに不定詞がくれば「~するために」となります(英語の to に相当)。

しかし、つねに後ろから前にかけて「~するために」という「目的」の意味になるとは限りません。英語の to でもそうですが、「結果」(または「継起」)の意味になることもあります。

一般に、 A pour B. という表現は、次の 2 通りの可能性があることを念頭に置いておく必要があります。

  1. B するために A する (「目的」的=後ろから訳す)
  2. A して B する (「結果」的=前から訳す)

例えば、

  Je me suis levé pour ouvrir la fenêtre.

「me」は再帰代名詞 se の 1 人称単数の形。
「suis」は être の現在(1人称単数)。「levé」は他動詞 lever (起こす)の過去分詞。
se lever で「自分を起こす」→「起きる」という自動詞的な意味になります。
再帰代名詞が入っているので、être + p.p. で複合過去です。
「ouvrir」は他動詞で「開ける」。「fenêtre」は女性名詞で「窓」。

さて、この文は次の 2 通りに解釈可能です。

  1. 私は窓を開けるために、起き上がった。 (「目的」的=後ろから訳す)
  2. 私は起き上がって、窓を開けた。 (「結果」的=前から訳す)

この 2. の解釈だと、次のように言い換えられます。

  Je me suis levé et j'ai ouvert la fenêtre.
    (私は起き上がった、そして私は窓を開けた)

「ai」は助動詞 avoir の現在。「ouvert」は ouvrir の過去分詞
「ai ouvert」で ouvrir の複合過去です。

このように、単に A という事柄のあとに B という事柄が続いて起こった(=「継起」した)ことを表すために「pour」を使うこともできるわけです。

なお、このように「結果」的に前から訳す場合は、 pour の後ろの動詞(ここでは ouvrir)は、 pour の前の動詞(ここでは suis levé)の時制に合わせて訳すと、うまく行きます。
つまりこの場合、 ouvrir は「開けた」というように複合過去らしく訳すと、しっくりきます。

ce qu'il y a de + 形容詞 : 「(存在する)~なもの」

【項目の説明】
この表現は、辞書類で ce を引くと載っていますが、見つけにくいので、どこに記載されているか、具体的にいくつか記しておきます。

  • 『ロワイヤル仏和中辞典』で ce を引くと、代名詞の四角の B 「関係代名詞の先行詞として」の丸 1 の b) の後半に「ce que... de + 形容詞・名詞」が載っており、例として「Ce qu'il y a de magnifique dans ce film, ... その映画の中ですばらしい点は...」と書かれています。
  • 『プログレッシブ仏和辞典』で ce を引くと、右上に 2 と書いてある ce の II 「関係代名詞の先行詞として」の四角の 1 の丸 2 に「ce que... de + 形容詞〔名詞〕」が載っており、例として「ce qu'il y a de (plus) compliqué dans cette affare この事件の(最も)複雑なところ」と書かれています。
  • 『ディコ仏和辞典』で ce を引くと、右上に 1 と書いてある ce の四角の 2 [関係代名詞の先行詞] の丸 1 「...のもの〔こと〕」の後半に「ce qui [ce que] ... de + 形容詞」が載っており、例として「ce qu'il y a de curieux 奇妙なこと」と書かれています。
  • 『新フランス文法辞典』で ce を引くと、p. 107 右上に「ce... de + 形」が載っており、例として「ce qu'il y a de terrible 恐ろしいこと」と書かれています。

順に見ていくと、指示代名詞「Ce」は関係代名詞の先行詞になると、「...なもの」「...なこと」という意味。「qu'」は関係代名詞「que」「il y a ~」は「~が存在する」
さて、問題は「de」です。
これは何かというと、quelque chose や rien などの、いわゆる「不定代名詞」(またはそれに似た漠然とした代名詞)に形容詞がかかると、形容詞の前に前置詞 de が入るという規則によるものです。
辞書類では、例えば『ロワイヤル仏和中辞典』で de を引くと、最後のほうの四角の C 「文法的機能」の丸 3 の a) 「不定代名詞の後」の項目に記載されています(その他の辞書類にも載っていますので、探してみてください)。

このように、「qu'il y a (存在する)」は「ce (もの・こと)」にかかり、「de + 形容詞 (~な)」も「ce (もの・こと)」にかかっていると捉えることができます。

この表現は、色々とバリエーションがあります(il y a 以外の主語と動詞がくる場合、de の後ろに名詞がくる場合など)。
しかし、「ce qu'il y a de + 形容詞」が一番よく使われます。

なお、この表現で形容詞の前に plus がつくと、最上級の意味になります。

  ce qu'il y a de plus + 形容詞: 「(存在する)最も~なもの」

通常は、最上級にするには定冠詞(または所有形容詞)が必要ですが、この表現の場合は plus だけで最上級になります。

例文
Le sacrifice est ce qu'il y a de plus beau au monde.

【逐語訳】
犠牲は、この世に存在する最も美しいものである。

【出典】
『新フランス文法辞典』 p.107 で引用されている Alfred de Vigny の日記

  ⇒他の例(名言)

se trouver = être

基本的には、trouver は「見つける、見出す」という意味の他動詞です(英語の find に相当)。
これに再帰代名詞 se が加わると、この se は他動詞の直接目的となるので、直訳すると「自分を」 となり、

  • (1) 「自分を見つける」「自分を見出す」

という意味になります。さらに、「受身的な意味」に取って、

  • (2) 「見つけられる」「見出される」

とすることができます。

この言いまわしは、実際には「(ある場所や状態に)見つけられる、見出される」という文脈で使われるので、要するに、

  • (3) 「(ある場所や状態に)いる、ある」

という意味になります。例えば『ロワイヤル仏和中辞典』の1番の意味には次のような例文が載っています。

  • Il se trouve actuellement à Paris.
    彼は今パリにいる。
    「actuellement」は副詞で「現在は」。

これは次のように書き換え可能です。

つまり、

  se trouver = être

ということがわかります。

あるいは、同じ辞典の 2 番の意味には、次のような例文が載っています。

  • se trouver dans une situation difficile
    困難な状況に陥る

これは次のように書き換えても、大きくは意味が変わりません。

  • être dans une situation difficile
    困難な状況にある

ここでも、単純化すれば、ほとんど se trouver = être だといえるでしょう。

ただし、se trouver が être と完全にイコールというわけでもないので、se trouver のニュアンスを盛り込んだ、

  • (4) 「(ある場所や状態に)置かれている」

という訳も覚えておくとよいと思います。

このように、se trouver が出てきて意味が取りにくいと感じたら、être に置き換えられないか考えてみてください(ただし、すべてのケースで置き換え可能なわけではありません)。

⇒ 例文(ビュフォン)

comme si : 「あたかも ...であるかのように」

comme (~のように)は英語の as に相当し、si (もし)は英語の if に相当するので、あわせて英語の as if と同じ意味になります。

comme si... の後ろは、時制は必ず直説法半過去か直説法大過去のどちらかになります。これは主節が現在であるか過去であるかによって決まります。

 主節が現在の場合 comme si + 直説法半過去
 主節が過去の場合 comme si + 直説法大過去

これは、comme を省くと、「事実に反する仮定」(非現実の仮定)の作り方と同じです。

それでわかるように、これは「非現実の仮定」をベースにした表現です。「実際は違うけれども、あたかも ...であるかのようだ」というわけです。
いわば「非現実の比喩」です。

注意しなければならないのは、意味的に現在のことであっても、comme si... の後ろは自動的に半過去になってしまうので、この半過去の部分を訳す時は、現在っぽく訳さなければならない(過去のように訳してはならない)という点です。

例文
Lorsque j'arrivai, je fus regardé comme si j'avais été envoyé du Ciel : vieillards, hommes, femmes, enfants, tous voulaient me voir.

【例文の説明】
「Lorsque」は接続詞で「...とき」。
「arrivai」は自動詞 arriver の単純過去1人称単数(a 型の活用)。
「fus」は être の単純過去 1人称単数。
「regardé」は他動詞 regarder の過去分詞。
「fus regardé」で「単純過去 + 受動態」。「見られた」となります。

「avais」は助動詞 avoir の直説法半過去 1人称単数。
「été」は助動詞 être の過去分詞
「envoyé」は他動詞 envoyer (送る、派遣する)の過去分詞。
「avais été envoyé」で「直説法大過去 + 受動態」。「派遣された、遣(つか)わされた」となります。

「du」は de と le の縮約形
この de は「~から」(出発点)です。
「Ciel」は男性名詞で「空(そら)」。
これが大文字で書かれているのは、物理的な「空」ではなく、「天」というような意味(つまり「神」に似たような意味)だからだと思われます(フランス語で「神」という場合は、原則として大文字で Dieu と書くことからの類推)。ただし、こうした意味の場合には大文字で書かなければならないという規則が存在するわけではありません。

「vieillard」は「老人」、「homme」は「男」、「femme」は「女」、「enfant」は「子供」。
いずれも無冠詞なのは列挙されているからです。
「tous」はこの場合は強めに「トゥス」と発音し、「皆」という意味
「voulaient」は vouloir (~したい)の直説法半過去3人称複数。
「voir」は他動詞で「見る」。

「天から遣わされた」というのは、もちろん「非現実の仮定」です。「実際は違うけれども、あたかもそのような目で見られた」ということなので、 comme si... が使われています。
主節で「fus regardé」という「単純過去」(大雑把にいえば「過去」)が使われているので、 comme si... の後ろは自動的に直説法大過去になります。

【逐語訳】
私が到着したとき、私はあたかも天から遣わされたかのように見つめられた。老人も、男も、女も、子供も、皆が私を見ようとしていた。

【出典】
Montesquieu, Lettres persanes, Lettre 30
当時、有名人だったモンテスキューがパリに到着したとき、どこへ行っても野次馬が大勢集まってモンテスキューのことをじろじろと見た、という文脈です。















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