「北鎌フランス語講座 - 文法編」と連動し、短い例文を使って徹底的に文法を説明し、構文把握力・読解力の向上を目指します。

比較の表現の文法解説

比較の表現

このページでは、比較の表現を集めてみます。比較級を使った重要な表現も多数存在します。

「比較級」については、文法編の「比較級と最上級」のページを参照してください。


比較の que の後ろが節の場合 : 「S が V する以上に」

【項目の説明】
比較級の一番基本的な表現は、

  「plus 形容詞・副詞 que ~」(~よりも〔形容詞・副詞〕)

で、 que の後ろは名詞一語(または名詞一語に相当するグループ)が来ます。例えば、

  Il est plus intelligent que Pierre. (彼はピエールよりも頭がいい)

「intelligent」は「頭がいい」という形容詞で、 que の後ろには名詞一語が来ています。
しかし、中には que の後ろに「節」(=小さな S + V を含むグループ)がくる場合もあります。例えば、

  Il est plus intelligent que je ne croyais. (彼は私が思っていたよりも頭がいい)

この場合は que の後ろの「je (私が)」が小さな主語(S)、「croyais (思っていた)」は croire (思う)の半過去(1人称単数)で、小さな動詞(V)です。
このように比較の que の後ろに「節」がくる場合は、虚辞の ne が入りやすくなります。虚辞の ne は訳しません。

例文
Bergson est beaucoup plus proche de Kant qu'il ne le croit lui-même.

【例文の説明】
「Bergson (ベルクソン)」と「Kant (カント)」はどちらも哲学者の名前。
「beaucoup」は「とても」という副詞ですが、比較級と一緒に使うと、比較級を強める「はるかに」「ずっと」という意味になります。
「plus... que」の間には、形容詞「proche」が来ていますが、この形容詞は de とセットで、
  「proche de ~」(~に近い)
という使い方をします。
que の後ろは、「il」(Bergson を指す)が小さな主語(S)、「croit」が croire (思う)の現在(3人称単数)、そしてこの croire という動詞は基本的に他動詞なので、その前の「le」が直接目的(OD)です。この「le」は文脈全体を指す中性代名詞で「そのことを」という意味 (ここでは「そのように」「そう」という感じです)。
「lui-même」は「自分自身(で)」「彼自身(で)」。

なお、上の【項目の説明】で挙げた例文では、「... que je ne croyais」となっており、直接目的(OD)が欠けていますが、もちろん「le」を補って次のように言うことも可能です。

  Il est plus intelligent que je ne le croyais.

こちらのほうが文法的には正しい言い方なのですが、この表現の場合はしばしば直接目的(OD)の「le」が省略されます(いわゆる「他動詞の絶対的用法」)。

【逐語訳】
「ベルクソンは彼が自分自身でそう思っているよりもずっとカントに近い」

【出典】
Gilles Deuleuze(ジル・ドゥルーズ), Cinéma II : L'image-temps

rien de plus 形 que ~ :「~以上に〔形〕なものは何も... ない」

【項目の説明】
「que ~」は「~より」「~以上に」「~ほど」と訳すことができます。
最もよく使われるのは、「Il n'y a」と組み合わせた次の表現です。

  Il n'y a rien de plus 形容詞 que ~.
      (~以上に〔形容詞〕なものは何も存在しない)

「Il n'y a rien」は「Il y a ~ (~が存在する)」と「ne... rien (何も... ない)」が組み合わさった形です。
「rien」の後ろの「de」は前置詞で、一般に rien に形容詞をつける場合には de を入れて「rien de 形容詞」というように表現します(辞書でも「rien」を引くと出ています)。
「plus 形容詞 que ~」は比較の表現。比較級(「それ以上のもの」)を否定することで、最上級と同じ意味になっており、要するに「~が最も〔形容詞〕だ」と同じ意味になります。
「Il n'y a」を省略した次のような表現も頻繁に見られます。

  Rien de plus 形容詞 que ~.

「Il y a」の他、「trouver (見つける、見出す)」などの動詞と一緒に使うこともあります。

例文
Rien de plus émouvant que les deux lettres adressées alors par Rimbaud à l'ami qui s'est éloigné.

【例文の説明】文頭に「Il n'y a」が省略されています。
「émouvant」は形容詞で「感動的な」。もとは他動詞 émouvoir (感動させる)の現在分詞の形です。 émouvoir は、語源的には強調を表す接頭語 é- と mouvoir (動かす)がくっついてできた動詞です。名詞の形は émotion (感動)です。
「deux」は「2つ(の)」。「lettres」は lettre (手紙)の複数形。この後ろの過去分詞に女性複数の es がついているのでわかるように、lettre は女性名詞です。
「adressées」は規則動詞 adresser の過去分詞 adressé に女性複数の es がついた形。この動詞は次のように使います。

  adresser A à B (A を B に向ける)

A が直接目的(OD)、B が間接目的(OI)です。これを受動態にする場合は、受動態では必ず直接目的(OD)が主語になるため、 A を主語にし、動詞を être + p.p. にして次のようになります。

  A est adressé à B (A は B に向けられる)

ここから「est」を省いて過去分詞だけにすると、次のように前にかかり、「~された」という意味になります。

  A adressé à B (B に向けられた A)

上の例文では、この A が「les deux lettres (2通の手紙)」、 B が「l'ami (友人)」に相当し、「les deux lettres adressées à l'ami」で「友人に向けられた(宛てられた)2通の手紙」となります。

「alors」は英語の then と同様、「そのとき」「当時」という具体的な時期を示す場合と、前の文脈を受けて「そこで」という意味がありますが、ここでは前者。
「Rimbaud」は19世紀フランスの詩人アルチュール・ランボー
「par」は「~によって」(英語の by)。「ami」は「友人」ですが、女性の友人なら女性形の e がついて「amie」となるため、ここでは男の友人です。
その後ろに関係代名詞 qui がついています。カッコに入る(関係詞節となる)のは「qui s'est éloigné」で、これが前の先行詞「l'ami」にかかっています。
「éloigné」は他動詞 éloigner (遠ざける)の過去分詞。再帰代名詞「s'」が加わると、
  s'éloigner 「自分を遠ざける→遠ざかる」
というように自動詞的な意味に変化します。再帰代名詞がついている場合は、 être + p.p. で複合過去になるため、「遠ざかった」となります。

【逐語訳】
「このときランボーによって遠ざかった友人に宛てられた2通の手紙以上に感動的なものは何も存在しない」
(=このとき遠ざかった友人にランボーが宛てた2通の手紙ほど感動的なものはない)

【出典】
Yves Bonnefoy, Rimbaudランボーの伝記)

d'autant plus ~ que... : 「...するだけ、ますます~」

【項目の説明】
「~」の部分には形容詞か副詞がきて、「que」の後ろの「 ... 」の部分には「節」(小さな S + V を含むグループ)がきます。
この表現のベースにあるのは、「plus ~ que...」(...よりも~)という比較級ではなく、「autant ~ que...」(...と同じだけ~)という同等比較です。
autant は、「文法編」では名詞の同等比較で「autant de + 名詞 + que」という使い方が記載されていますが、ほかにも辞書を引くと色々な用法が載っています。基本的には「autant」は「同じだけ」という意味で、この項目の熟語も載っているはずです。
これに plus が加わって、「...するのと同じだけ、より~」というのが元の意味です。

例文
Un élément très petit d'une courbe est presque une ligne droite. Il ressemblera d'autant plus à une ligne droite qu'on le prendra plus petit.

【例文の説明】
「élément」は男性名詞で「要素」。「très」は副詞で「非常に」。「petit」は形容詞で「小さな」。「courbe」は女性名詞で「曲線」。「presque」は副詞で「ほとんど」。「ligne」は女性名詞で「線」。
「droite」は形容詞 droit (まっすぐな)に(前の名詞「ligne」に合わせて)女性単数の e がついた形。「ligne droite」で「直線」となります。
ここまでで、「曲線の非常に小さな要素は、ほとんど直線である」となります。
次の代名詞「Il」は「Un élément très petit d'une courbe (曲線の非常に小さな要素)」を指します。
「ressemblera」は ressembler の単純未来(3人称単数)。前置詞 à とセットで
  ressembler à ~ 「~に似ている」
という使い方をする間接他動詞です。
「on」は漠然と「人は」ですが、訳さないほうが自然になります。
「le」も「Il」と同様に「Un élément très petit d'une courbe (曲線の非常に小さな要素)」を指します。
「prendra」は prendre (取る)〔英語の take〕の単純未来(3人称単数)。

【逐語訳】
「曲線の非常に小さな要素は、ほとんど直線である。それを小さく取れば取るほど、ますますそれは直線に似るだろう」

【出典】
Henri Bergson, L'Évolution créatriceアンリ・ベルクソン『創造的進化』)

de moins en moins : 「ますます... ではなくなる」

【項目の説明】
de plus en plus は英語の more and more に相当し、「ますます」「だんだん」「徐々に」という意味ですが、だんだん「そういう状態に変化していく」というニュアンスを含むため、文末は断定的に「...だ」と訳すよりも、むしろ「...していく」「...になっている」と訳すとぴったりくる場合が多いでしょう。
この反対語が de moins en moins で、英語の less and less に相当します。肯定文で使用しますが、意味的には否定になります。「ますます少なく」と訳すと直訳調になりますので、あたかも否定文であるかのように「ますます... ではなくなる」と訳すとうまくいきます。
なお、後ろに名詞がくると de が入り、次のようになります。
  de plus en plus de ~ 「ますます多くの~」
  de moins en moins de ~ 「ますます少ない~」
発音は、いずれも en の前でリエゾンし、「de plus en plus」は「ドゥプリュザンプリュ」、「de moins en moins」は「ドゥモワンザンモワン」とつなげて発音します。

例文
Notre société hygiénique et puritaine se montre de moins en moins favorable à la connaissance et aux satisfactions tactiles.

【例文の説明】
「Notre」は「私達の」。「société」は女性名詞で「社会」。形容詞「hygiénique」は「衛生上の、衛生的な」。
形容詞「puritaine」は女性形の e がついており、puritain はもともとイギリスのピューリタン(清教徒、Puritan)を指す名詞ですが、ここでは形容詞で「厳格な」「潔癖な」という意味。ここまでで、「私達の衛生的で潔癖な社会は」となります。
次に、動詞の前後を飛ばして、先にその後ろを見ておくと、「favorable (好意的な)」は前置詞 à とセットで使うことが多い形容詞で、
  favorable à ~ (~に〔対して〕好意的な)
という意味。
「connaissance (知識、認識)」も「satisfaction (満足)」も女性名詞。「satisfaction」だけ複数形になっていますが、その前の aux は à と les の縮約形で、この à は「favorable à」の à であるため、「connaissance」と「satisfactions」が並列になっていることがわかります。形容詞「tactile (触覚の)」に複数の s がついているのは直前の「satisfactions」に一致させた結果ですが、「tactiles」は意味的には前の両方の名詞に掛かっていると理解したほうがよいでしょう。ここまでで「触覚による認識と満足」となります。

さて、動詞の「montre」は他動詞 montrer (示す)の現在(3人称単数)。辞書で montrer を引き、再帰代名詞「se」がついた項目を見ると、後ろに形容詞を伴った例文が載っているはずです。逐語訳すると、
  「se montrer ~」で「自分が~であることを示す」
となります。
これは「文法編」の再帰代名詞のページの例文「Il se croit intelligent.」と同様に第6文型を取り、「se montrer ~」の「se」が直接目的(OD)、形容詞の「~」の部分が属詞(C)になり、「『自分』イコール『~』であることを示す」というのが元の意味です。
辞書には、「~な態度を取る」というような訳が(項目の訳または例文の訳として)載っている場合があり、この訳を使ってもうまく訳せます。

以上の訳をつなげると、まず、最初と最後のあたりを訳すと、
  「私達の衛生的で潔癖な社会は、触覚による認識と満足に対して...」
となります。
これに続けて、動詞のあたりを訳す場合、いくつか訳が可能です。
一番逐語訳に近い訳にすると、
  「...ますます自分が好意的ではないことを示すようになっている」
辞書の訳語を使うと、
  「...ますます好意的ではない態度を取るようになっている」
少し意訳すると、
  「...ますます好意的ではなくなっている」

【訳】
「私達の衛生的で潔癖な社会は、触覚による認識と満足に対して、ますます好意的ではなくなっている」
(現代社会では、子供は「触っちゃだめ」と叱られ、店の商品はショーウィンドーのガラスで隔てられ、「見る」のはいくら見ても構わないが、「触る」ことは禁じられている場合が多く、触って物を認識したり満足を得たりする機会が少なくなっている、という文脈)

【出典】
Michel Tournier, Petites proses
現代の小説家ミシェル・トゥルニエは、また随筆の名手でもあります。日本の大学入試問題(英語の代わりにフランス語で受験する高校生向け)では、過去に多くの有名大学で、この本からの随筆がそのまま長文問題として採用されています。逆に言うと、大学入試問題レベルの文章だということで、ひとつの目安になります。

plus ou moins : 「多かれ少なかれ」「~だったり~でなかったりする」

【項目の説明】
「plus」は英語の more 、「moins」は less に相当する比較級で、「plus ou moins」は英語の more or less (多かれ少なかれ)に相当する熟語です。発音は plus の後ろでリエゾンします(「プリュズーモワン」と発音)。

ただし、「plus ou moins ~」は必ずしも「多かれ少なかれ ~だ」という意味になるとは限りません。語源的に「plus」は英語の plus (プラス)、「moins」は minus (マイナス)と同じことからもわかるように、moins は「否定」に近い言葉です。
そのため、「plus ou moins ~」は「肯定または否定」、つまり「~だったり、~でなかったりする」という意味になることもあります。これは、日本語の「多かれ少なかれ」、つまり「程度の差はあれ、多少なりとも~だ」(プラスであることには変わりない)という意味とは異なります。
そのため、
  1 「多かれ少なかれ」
  2 「~だったり、~でなかったりする」
の両方の意味を知っておく必要があります。

1 の意味しか載っていない辞書もありますが、例えば『ディコ』には 2 の意味も載っており、次のような例文が記載されています。

  Selon les lecteurs, ce livre est plus ou moins utile.
    (読者によって、この本は、役に立ったり、役に立たなかったりする)

これを、「この本は多かれ少なかれ役に立つ」と訳すと、「読者によって」という部分との繋がりが変になってしまいます。上の 2. の意味でしか取りにくい、うまい例文です。
つまり「この本」は、「程度の差はあれ、誰にでも多少は役に立つ」のではなく、読者によっては役に立たない場合もあるわけです。

例文
Les grandes découvertes scientifiques influencent plus ou moins la vision concrète que nous avons du monde.

【例文の説明】
「grandes」は形容詞 grand (大きな、偉大な)の女性複数形。
「découvertes」は女性名詞 découverte (発見)の複数形。もともと、他動詞 couvrir (カバーをかける、覆う)に接頭語 dé- (否定や剥奪を意味する)がついてできた他動詞 découvrir (覆いを取る、発見する)の過去分詞 découvert (発見された)が名詞化してできた言葉です。英語に入ると discover (発見)となります。
「scientifiques」は形容詞 scientifique (科学的な)の複数形。
「Les grandes découvertes scientifiques (偉大な科学的発見)」全体が主語になります。

「influencent」は他動詞 influencer (影響を与える)の現在(3人称複数)。
「vision」は女性名詞で「ビジョン、物の見方」という意味。
「concrète」は形容詞 concret (具体的な)の女性単数形(女性形は少し不規則で、アクサン・グラーヴをつけて e がつきます)。

「que」が接続詞か関係代名詞かは、「que の後ろだけで文が完結しているかどうか」で決まります。ここでは、「nous (私達が)」の後ろの「avons」は他動詞 avoir (持っている)の現在(1人称複数)ですが、avoir は他動詞なので直接目的(OD)が必要です。その後ろの「du」は前置詞 de と定冠詞 le の縮約形で、男性名詞「monde (世界)」は前に前置詞がついているので直接目的(OD)にはなりえません。つまり、que の後ろだけでは文が完結していない(ODが欠けている)ので、この que は関係代名詞ということになります。
「que nous avons du monde (私達が世界について持っている)」がカッコに入り(=関係詞節になり)、先行詞「la vision concrète (具体的な物の見方)」に掛かっています。

【逐語訳】
「偉大な科学的発見は、私達が世界について持っている具体的な物の見方に影響を与えたり、与えなかったりする」

【出典と文意】
Michel Tournier の随筆の冒頭の文。
この随筆では、次のようなことが書かれています。コペルニクスは地球が動いていることを明らかにしたが、天文学者を含め、実際には私達の目には太陽が動いているとしか見えないため、地動説は私達の物の見方にはまったく影響を与えなかった。
それに対して、細菌学者パスツールの発見は、帰宅したら手を洗うという習慣を広めることに貢献した。これは手を洗う(清める)という動作が、ケガレを払うという古来からの意識の延長線上にあったため、すんなりと人々に受け入れられたからである。
つまり、偉大な科学的発見は、私達の具体的な物の見方に「多かれ少なかれ影響を与える」のではなく、「影響を与えることも、与えないこともある」わけです。

n'en... pas moins : 「それでもやはり...だ」

【項目の説明】
これは非常に重要な表現で、辞書で「moins」の項目を引くと熟語で「それでもなお... だ」として載っています。なぜ重要かというと、否定の「n' ...pas」が入っているので、よく理解しないまま否定だと取ると正反対の意味になってしまうからです。
「moins」は劣等比較で「より少なく」。これを「n’」と「pas」で否定しています。劣等比較の否定なので、二重否定と似たような感じになり、全体として否定ではなく肯定になります。よくわからない場合は、「n'en... pas moins」を省いて意味を取れば、大きく間違えることはありません。
「en」は中性代名詞で、「de + 前の文脈全体」に代わる en です。「そのことによって」と訳すとうまくいきます
この熟語全体を逐語訳すると、「そのことによって、より少なく... ではない」。つまり、「だからといって ...の度合いが低下するわけではない」。ここから、「それでもやはり... だ」という意味になります。

例文
Le nez de Cléopâtre, s'il eût été plus court, Rome n'en eût pas moins connu, l'une après l'autre, sa grandeur et sa déchéance.

【例文の説明】
この文は「文法編」の「高度な条件法の用法」のページ「条件法過去第二形」の項目で出てきたパスカルの有名な文をベースにして、それをもじった文です。
この文の前半(従属節)の「Le nez de Cléopâtre, s'il eût été plus court (クレオパトラの鼻、もしそれがもっと短かかったとしたら)」まではパスカルの文と完全に同じなので、文法編の説明を参照してください。ちなみに、「eût」は助動詞 avoir の接続法半過去(3人称単数)、「été」が être の過去分詞なので、「eût été」で être の接続法大過去です。

「Rome」は「ローマ」。ここでは「ローマ帝国」の意味で使っています。
「eût」は助動詞 avoir の接続法半過去(3人称単数)、「connu」は他動詞 connaître (知っている、知る)の過去分詞なので、「eût connu」で connaître の接続法大過去。
connaître はここでは「知る」というよりも「経験する」に近い意味。辞書で「connaître」を引くと、最後のほうに「〔物が主語で〕 succès (成功)を connaître する」(成功を経験する=成功を収める)というような例文が載っていますが、それに近い意味です。ただ、「知る」という意味しか知らなくても、文脈に置き直して考えれば類推可能です。

この文で 2 回出てくる「接続法大過去」は、いずれも「条件法過去第二形」として(つまり条件法過去の代わりとして)使われています。

「l'une après l'autre」は熟語に近い表現。仏和辞典で「autre」を引くと、まず形容詞、次に代名詞が載っていて、最後のほうに「l'un」と「l'autre」の間に前置詞が挟まる例文が集められた項目があり、例文の中に「l'un(e) après l'autre」も載っているはずです。「前後になって」「相次いで」と書かれているかもしれませんが、英語の「one after another」と同じで、「次から次へと」「次々に」「一つ、また一つ」「順々に」という意味です。
この文で「l'un」に女性単数の e がついているのは、「grandeur (大きさ、偉大さ、栄華)」と「déchéance (衰退)」がともに女性名詞だからです。所有形容詞「sa (その)」は「ローマの」。

この文の前半(従属節)は、パスカルの文では「クレオパトラの鼻、もしそれがもっと短かかったとしたら」という意味でしたが、ここでは文の後半(主節)とのつながりから非現実の仮定に「譲歩」の意味が追加されており、「クレオパトラの鼻、たとえそれがもっと短かかったとしても」という意味に変化しています。

【逐語訳】
「クレオパトラの鼻、たとえそれがもっと短かかったとしても、それでもやはりローマは栄華と衰退を順々に経験したことだろう」

【出典】
André Maurois, Lettres à l'inconnu

moindre : 「ほんのわずかな~さえ」

【項目の説明】
moindre は形容詞 petit (小さい)の比較級・最上級です。
定冠詞がつくと最上級になります が、単に「最も小さな」という意味ではなく、「~さえ」という意味が加わり、「ほんのわずかな~さえ」という意味になることが多いので、注意が必要です。例えば、

  sans le moindre doute (ほんのわずかな疑いさえなく)

前置詞「sans」は「~なしに」。「doute」は男性名詞で「疑い」。「最も小さな疑いなしに」ではなく、「ほんのわずかな疑いさえなく」(つまり「完全に信じきって」)という意味です。

例文
Le moindre son m'effraie ; le moindre mouvement autour de moi m'épouvante. Le bruit même de mes pas me fait reculer.

【例文の説明】
「son」はここでは男性名詞で「音」〔英語の sound〕。「effraie」は不規則動詞で、他動詞 effrayer (怖がらせる)の現在(3人称単数)。この直接目的が「m’」です。
これを「最も小さな音が私を怖がらせる」と訳すと、「大きな音なら怖くない」ということになりかねません。ですから、「ほんのわずかな音さえも私を怖がらせる」と受け取る必要があります。
「;」という記号は、おおむね日本語の「。」に対応します

「mouvement」は「動き」(男性名詞)。「autour de ~」は「~のまわりの(で)」という前置詞句前置詞(句)の後ろなので代名詞は強勢形の「moi」になっています。「épouvante」は他動詞 épouvanter (驚かせる)の現在(3人称単数)。この直接目的が「m’」です。
これを「私のまわりの最も小さな動きが私を驚かせる」と訳すと、「大きな動きなら驚かない」ということになりかねないため、「私のまわりのほんのわずかな動きさえも私を驚かせる」と受け取る必要があります。例えば、蝋燭の炎が揺らめいただけでも、びっくりしてしまう、という意味です。

「bruit」も男性名詞で「音」〔英語の noise〕。「même」は「同じ」という意味なら名詞の前に置いて「定冠詞(le, la, les) + même + 名詞」という順になるのが普通です。ここでは強調したい言葉の直後に置いて「~そのもの」という意味。
「pas」は前に「mes」という所有形容詞が付いているので名詞だとわかりますが、「歩み、一歩」という意味の男性名詞(否定の「pas」も、もともとは「一歩」という意味です)。「fait」は faire の現在(3人称単数)。もともと faire は英語の do (する)と make (作る)を兼ねた意味を持つ動詞ですが、英語の make と同様、使役動詞(「~させる」という意味)にもなります。使役動詞のため、その後ろの「reculer」が不定形になっています。
「reculer」は自動詞で「後ずさりする」。もともと「cul (尻)」という男性名詞からできた言葉なので、「尻込みする」という感じがぴったりです。

【逐語訳】
ほんのわずかな音さえも私を怖がらせる。私のまわりのほんのわずかな動きさえも私を驚かせる。私の歩みの音(→私が歩く音)そのものが私を後ずさりさせる。

【出典】
Benjamin Constantバンジャマン・コンスタン)の小説 Adolphe (1816)

si : 「かくも(こんなにも、これほどまでに)」

【項目の説明】
「文法編」の「暗黙のうちに同等比較を含む「si」 (かくも)」を参照してください。

例文
Pourquoi le spectacle de la mer est-il si infiniment et si éternellement agréable ?

【例文の説明】
「Pourquoi」は「なぜ」〔英語の why〕。「spectacle」は「光景」。「mer」は「海」。
「est-il」のところは、疑問文にする時に「主語が名詞の場合は名詞を残したまま、それを受ける代名詞を動詞の後ろに置き、ハイフンで結ぶ」という規則があるためで、代名詞「il」は「le spectacle de la mer (海の光景)」を指しています。

「si (かくも、こんなにも、これほどまでに)」はこの文では 2 回出てきますが、それぞれ直後の副詞「infiniment (無限に)」と「éternellement (永遠に)」に掛かっています。

語源的には、「infiniment」は形容詞「infini (無限の)」に、また「éternellement」は形容詞「éternel (永遠の)」の女性形に、それぞれ -ment をつけてできた副詞です。
「infiniment」と「éternellement」は、どちらも形容詞「agréable (心地よい)」に掛かっています。

【逐語訳】
「なぜ海の光景は、かくも無限に、そしてかくも永遠に心地よいのだろうか?」

【出典】
Baudelaireボードレール), Mon Cœur mis à nu (『赤裸の心』)

si ~ que... : 「とても~なので...」

【項目の説明】
「文法編」の「呼応の表現」を参照してください。
「非常に~であるため...」などと訳すことも可能です。

例文
Les haines sont si longues et si opiniâtrées, que le plus grand signe de mort dans un homme malade, c'est la réconciliation.

【例文の説明】
「que」の前にコンマがありますが、ここで前半と後半に分かれます。前半と後半を結び付けているのが、「si ~ que...」という呼応の表現です。

「haine」は女性名詞で「憎しみ」。これが複数形なので、形容詞「longues」と「opiniâtrées」は女性複数の形になっていますが、もとの(男性単数の)形はそれぞれ long (長い)と opiniâtré (執拗な)です。
opiniâtré は、もともと女性名詞 opinion (意見)からきた形容詞 opiniâtre (しつこい)の動詞の形 opiniâtrer (固執させる)の過去分詞の形(「固執させられた」)ですが、ここでは形容詞化しており(「固執した、執拗な」)、要するに opiniâtre (しつこい)と同じ意味になっています。
ここまでが前半で、文の要素に分けると、「Les haines」が主語(S)、「sont」が動詞(V)、「longues」と「opiniâtrées」が属詞(C)です。この2つの属詞に si が掛かり、後半の que 以下につながります。

「le plus grand」は最上級で「最も大きな」。「signe」は「le」がついているので男性名詞で「しるし、サイン、兆候・前兆」。
「signe de ~ (~のしるし、~の前兆)」というときは、「~」の部分に入る名詞は無冠詞になりやすい傾向があります(辞書の「signe」の例文を参照)。ここも「mort (死)」は女性名詞ですが、無冠詞になっています。
場所を表す前置詞「dans ~」〔英語の in 〕は、「~の中に」だけでなく、「~における」という意味も覚えておくと役に立ちます。
「homme」は「人」、「malade」は形容詞で「病気の」。「homme malade」で「病人」。

後半(que 以下)だけを取り出すと、ここまでの「le plus grand signe de mort dans un homme malade (病人における死の最も大きな兆候)」は、文頭に「遊離」しており、これを主節の指示代名詞「c’ (それは)」で受けています。
「réconciliation」は「和解・仲直り」。

【逐語訳】
「憎しみ(というもの)は非常に長く執拗であるため、病人における死の最も大きな兆候、それは仲直りである」

【出典】
La Bruyère(ラ・ブリュイエール), Les Caractères (17世紀後半の格言集)

tant que... : 「...な限りは」

【項目の説明】
「tant」という単語については、「文法編」の比較級と最上級のページで次のような表現が出てきました。

  (ne... pas) tant de 名詞 que ~ (~と同じほどの〔名詞〕は... ない)

つまり、「tant」には「同じくらい」という意味があります。

また、「文法編」の「暗黙の比較と呼応の表現」のページでは、「呼応の表現」として、次の 2 つの表現が出てきました。

  tant (過去分詞) que... (とても~なので ...だ)
  tant de 名詞 que... (とても多くの~ので ...だ)

このうちの「tant (過去分詞) que...」の場合は、過去分詞が挟まらずに、tant と que がつながって出てくることもありますが、ここで取り上げる表現では、常に tant と que の間に何も入らず、つながって出てきます。
Tant que... が文頭で出てきたら、まずこの表現だと考えられます。

元の意味は「...なのと同じくらいは」ですが、ここから「...な限りは」という意味の熟語に変化しています。
この表現では、動詞には単純未来が多く用いられます。

例文
Tant que mes amis ne mourront pas, je ne parlerai pas de la mort.

【例文の説明】
「ami」は男性名詞で「友人」。男女の友人がいる場合は、複数形は男性複数を使います。
「mourront」は自動詞 mourir (死ぬ)の直説法単純未来(3人称複数)。
「parlerai」は第 1 群規則動詞 parler (話す)の直説法単純未来(1人称単数)。
ここでは間接他動詞として、

  parler de ~ (~について話をする)

という使い方をしています。

単純未来は主語が 1 人称だと、「~つもりだ」という「意志」を表すことが多くなります。ここでは「~については話さないつもりだ」「~については語るまい」という感じです。

「mort」はもともと mourir (死ぬ)の過去分詞 mort からできた言葉で、次の 3 つの意味があります。

  1. 「死んでいる」(形容詞)
  2. 「死人」(男性名詞)
  3. 「死」(女性名詞)

ここでは、女性単数の定冠詞 la がついているので、抽象的な意味での「死」です。

【逐語訳】
「私の友人達が死なない限りは、私は死については語るまい」

【文意】
実際に体験しないうちは、軽々しく口にしたくない、ということでしょう。

【出典】
Lautréamont, Poésies II








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