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名言集(恋愛)

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このページでは、19 世紀の小説家スタンダールの『恋愛論』の中から、恋愛に関する名言を取り上げてみます。


Le plus grand bonheur que puisse donner l'amour, c'est le premier serrement de main d'une femme qu'on aime.

【逐語訳】
愛が与えうる最も大きな幸せ、それは愛する女性の手を最初に握ることである。

【意味的な補足・蛇足】
愛する女性の手を最初に握るときほど、愛において大きな幸せを感じる瞬間はない。

【単語の意味と文法】
「plus」の前に le がついているので最上級です。
「grand」は形容詞で「大きな」。
「bonheur」は男性名詞で「幸せ、幸福」。
「Le plus grand bonheur (最も大きな幸せ)」が先行詞となって、これに関係代名詞「que」がついています。
関係代名詞 que を使うのは、先行詞が関係詞節内の動詞の意味上の直接目的であるときです。つまり、先行詞が OD となって、必ず

  OD que S V

となるはずです。ところが、この文では関係代名詞 que の後ろに、主語(S)ではなく、いきなり動詞(V)がきています。
ということは、ここは倒置になっています。倒置でない文に直すと、コンマの前までは次のようになります。

  Le plus grand bonheur que l'amour puisse donner

なぜ倒置になっているかというと、関係代名詞の後ろでは潜在的に倒置になりやすいのに加え、一種の体言止めの効果を狙ったと見ることができます。

「amour」は男性名詞で「愛」。
「puisse」は pouvoir (~できる、~しうる)の接続法現在(3人称単数)。
なぜ接続法になっているかというと、先行詞が最上級である場合は関係節内の動詞は接続法になると決まっているからです。

コンマの前までで「愛が与えることができる最も大きな幸せ」となります。

内容的に考えると、「愛が」が主語(S)で、「与えることができる」が動詞(V)で、「最も大きな幸せ」が直接目的(OD)です。
OD が先行詞となって前に出たので、関係代名詞 que を使っているわけです。

文全体の中で見ると、コンマの前までが文頭に遊離して、それを指示代名詞 ce (それ) で受け直しています。
「premier」は形容詞で「最初の」。
「serrement」は男性名詞で「握ること」。
「main」は女性名詞で「手」。
「serrement de main」で「握手」または「手を握ること」。
「femme」は女性名詞で「女性」。
「une femme」が先行詞になって、また関係代名詞 que がついています。
「on」は漠然と「人が」。
「aime」は他動詞 aimer (愛する)の現在(3人称単数)。

【出典】
スタンダール『恋愛論』第 32 章の冒頭

Ce qu'il y a de plus étonnant dans la passion de l'amour, c'est le premier pas, c'est l'extravagance du changement qui s'opère dans la tête d'un homme.

【逐語訳】
愛の情熱の中に存在する最も驚くべきもの、それは最初の一歩であり、男の頭の中で行われる変化の唐突さである。

【意味的な補足・蛇足】
ひとめ惚れのメカニズムほど不可解なものはない。

【単語の意味と文法】
「Ce qu'il y a de plus ~」は「(存在する)最も~なもの」
「dans」は「~の中に」、「~における」。
「passion」は女性名詞で「情熱」。
「amour」は男性名詞で「愛」。
コンマの前までで、「愛の情熱の中に存在する最も驚くべきもの」、または「il y a (存在する)」を訳さなければ「愛の情熱における最も驚くべきもの」となります。

コンマの前まで全体を、その後ろの「c' 」つまり指示代名詞 ce (それ)で受けています。
これは遊離構文(文頭に遊離)です。

「premier」は形容詞で「最初の」。
「pas」は男性名詞で「歩み」。
この文は、「c'est ~」が 2 回出てきて、並列(言い換え)になっています。
「extravagance」は女性名詞で「突飛さ、唐突さ」。
「changement」は男性名詞で「変化」。
要するに、いきなり前触れもなしに変化することを意味しています。

「opère」は他動詞 opérer の現在(3人称単数)。opérer は、英語に入ると operate となり、「手術する」などの意味もありますが、ここでは単に「行う」。つまり faire と同じ意味です。これは répéter (繰り返す)と同じタイプの活用をする動詞で、活用の一部でアクサンの向きが逆になります。
これに再帰代名詞の「s’」がついています。そのため、「行われる」という自動詞的な意味に変化しています。
「tête」は女性名詞で「頭」。
「homme」は男性名詞で「人、人間」という意味もありますが、ここは恋愛の話なので、「男」です。

【出典】
スタンダール『恋愛論』第 13 章の冒頭

Aimer, c'est avoir du plaisir à voir, toucher, sentir par tous les sens, et d'aussi près que possible un objet aimable et qui nous aime.

【逐語訳】
愛すること、それは愛すべき人、そして私達を愛してくれる人を、あらゆる感覚によって、しかもできるだけ近くから、見て、触って、感じることに喜びを抱くことである。

【単語の意味と文法】
「Aimer」は aimer (愛する)の不定形「~すること」という意味になります。

これを、その後ろの「c' 」つまり指示代名詞 ce (それ)で受け直しています。
つまり、遊離構文(文頭に遊離)です。
「est」は être (である)の現在(3人称単数)。
「愛すること、それは...」という、定義するような文です。

「avoir」は他動詞で「持つ」。
この直接目的が「du plaisir」です。
「plaisir」は男性名詞で「喜び、快楽」。英語に入ると pleasure となります。
「avoir du plaisir」で「喜びを持つ」。
「du」は部分冠詞です。このように、「感情」を表す名詞にも、よく部分冠詞がつきます

その後ろの前置詞「à」は、「~することに」という感じです。
辞書で à を引くと色々な意味が載っていますが、「後ろに名詞がくる場合」と「後ろに不定詞がくる場合」の 2 つに大きく分かれます。
ここで出てきた意味は、具体的には
例えば次の部分に載っています。

  • 『ロワイヤル仏和中辞典』だと、赤の四角の B 「不定詞を伴って」の黒丸の 4 《限定》「...するのに、...することにおいて」。
  • 『ディコ仏和辞典』だと、四角の 3 「名詞・形容詞 + à + 不定詞」の黒丸の 1 [限定] 「...することに、...することが」。
  • 『プログレッシブ仏和辞典』だと、黒の四角の 2 「不定詞を伴って」の黒丸 8 《手段、原因》「...することで」に近いでしょう。

ここまでで、「愛すること、それは ...することに喜びを持つことである」となります。

「à」の後ろは動詞(不定詞)が 3 つ並列になっています。
「voir」は「見る」。
「toucher」は「触る」。
「sentir」は「感じる」。
いずれも他動詞です。ということは、原則として直接目的を伴うはずです。しかし、この直後には「par」(~によって)という前置詞がきています。前置詞の後ろは直接目的にはなりえないので、少し間をあけて、もう少しあとに直接目的が出てくるのだろうと見当がつきます。というわけで、どれが直接目的なのか探しながら後ろを読んでいくことになります。

「sens」は男性名詞で「感覚、意味、方向」。末尾の s も発音します。
英語に入ると sense となりますが、英語の sense には普通は「方向」という意味はないようです。
「tous」は形容詞 tout (すべての)の男性複数形。このように、「tout + 冠詞 + 名詞」という語順になります(英語の all と同様)。
「tous les sens」で「すべての感覚」となります。つまり、「視覚・聴覚・嗅覚など、五感すべて」という意味です。

その後ろの「d'aussi près que possible」は少し面倒ですが、まず「aussi... que ~」という同等比較(英語の as ... as ~)が入っています。
「possible」は形容詞で「可能な」。英語にも同じ綴り・意味で入っています。
「aussi... que possible」で「可能な限り...」「できるだけ...」という意味です(英語の as ... as possible)。
残るは「d'... près」つまり「de près」です。
「près」は単独だと「近くに」という意味の副詞ですが、辞書を引くと熟語欄に「de près」で「近くから」という意味が載っているはずです。
つまり、ここは「aussi... que possible」(できるだけ...)と「de près」(近くから)が組み合わさった表現です。

こうして、
  「par tous les sens」(すべての感覚によって)
  「d'aussi près que possible」(できるだけ近くから)
の 2 つが、接続詞「et」を介して並列になっています。
「et」は「そして」ですが、ここでは「しかも」という感じです。

この「par tous les sens, et d'aussi près que possible」(すべての感覚によって、しかもできるだけ近くから)は、文の要素でいうと「状況補語」です。つまり「付け足しの言葉」なので、カッコに入れます。
すると、その後ろの言葉が、さきほど出てきた「voir, toucher, sentir」という 3 つの他動詞の共通する直接目的だろうと見当がつきます。

「objet」は男性名詞で、普通は「物」、「対象」という意味です(英語に入ると object という綴りになります)。
ただし、よく辞書を見ると、「対象、的」という意味で、どの辞書にも次のような例が載っているはずです。

  • objet d'amour (愛の対象、愛する相手)
  • objet d'admiration (称賛の的)

要するに、「objet」が実質的に「人」を指すわけです。
さらに『ロワイヤル仏和中辞典』だと、<<古>> として「objet aimé」という表現も載っています。
仏仏辞典 TLFi によって補足しておくと、objet の後ろに「de + 感情を表す無冠詞名詞」をつけて、その感情の「対象」という意味で使う表現は、現在でも普通に使われますが、objet の後ろに形容詞や過去分詞を添えて同じ意味を表わすのは古い言い方です。
ここでは、objet の後ろに形容詞がきているので、古い用法ということになります。

「aimable」は普通は「愛想のよい」、「親切な」、「感じのよい」という意味ですが、『ロワイヤル仏和中辞典』だと <<古>> として「愛すべき」という意味も載っています。

上の 2 つの単語を合わせると、「objet aimable」は少し古い用法で「愛すべき人」という意味だということができます。
ちなみに、ここから次のように言えそうです。

  • 今から 190 年前(1822 年)に刊行されたスタンダールの本でも、現在から見ると「古い」意味で使われている単語が混じっている。
  • こうした本を読むには、『ロワイヤル仏和中辞典』クラスの辞典が必要である。

「qui」は関係代名詞。
「aime」は他動詞 aimer (愛する)の現在3人称単数。
「nous」は「aime」の直接目的なので「私達を」。
「qui nous aime」で「私達を愛する」となりますが、さて「qui」の先行詞は、厳密にはどれでしょうか。

先行詞が「un objet aimable」(愛すべき人)だと思った方は、まだ実力不足かもしれません。
もし「un objet aimable」が先行詞だとするなら、接続詞「et」(そして)は意味をなさなくなります(「et」がなければ、「un objet aimable」が先行詞です)。

「et」は 2 つのものを並列で結ぶ働きをしますが、ここは「aimable」と「qui nous aime」が並列になっています。「aimable」も「qui nous aime」も、ともに「un objet」にかかっているわけです。
ということで、「qui」の先行詞は「un objet」です。

【出典】
スタンダール『恋愛論』第 2 章



    (追加予定)















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