「北鎌フランス語講座 - 文法編」と連動し、短い例文を使って徹底的に文法を説明し、構文把握力・読解力の向上を目指します。

フランス語の詩の文法解説

「夏の夜明けの月」      ⇒ 「詩と歌」のトップに戻る

このページで取り上げるのは、現代詩を代表する詩人の一人、Philippe Jaccottet (フィリップ・ジャコテ)の « LUNE A L'AUBE D'ETE » (夏の夜明けの月)という詩です。

短い詩ですが、この詩人の繊細な感性が感じられる名品です。

文法的には、倒置などが含まれており、解説なしで理解するのは少し難しいかもしれません。難しい単語は使われていませんが、構文把握力が試されるところです。

【文法の解説】の項目を読む前に、まず【単語の意味】だけを見ながら、どのような構文になっているか考えてみてください。

LUNE A L'AUBE D'ETE

Dans l'air de plus en plus clair
scintille encore cette larme
ou faible flamme dans du verre
quand du sommeil des montagnes
monte une vapeur dorée

Demeure ainsi suspendue
sur la balance de l'aube
entre la braise promise
et cette perle perdue




以下の解説では、改行せずに普通の文のように行をつなげ、必要に応じてコンマやピリオドを補います。

LUNE A L'AUBE D'ETE

タイトルについて補足しておきます。

大文字ではアクサンは省略することもあります(伝統的には、むしろ省略するほうが普通です)。この詩のタイトルは、最初の文字以外を小文字にしてアクサンをつけると、次のようになります。

  Lune à l'aube d'été

「Lune」は女性名詞で「月」。一般に、題名では無冠詞になることがよくあります。
「aube」は女性名詞で「夜明け、曙(あけぼの)」。どちらで訳すか悩ましいところです。
「été」は男性名詞で「夏」。ちなみに、être (~である)の過去分詞 été と、たまたま同じ形です。
「à」は場所・時を表す前置詞で、「~に」というのが一番大きな意味ですが、ここは時を表して「~における」という感じです。
「夏の夜明けにおける月」、つまり「夏の夜明けの月」です。

枕草子に、「春はあけぼの、やうやう白くなりゆく山ぎは少し明りて、紫だちたる雲の細くたなびきたる」というのがありますが、この詩では春ではなく夏なので、イメージが変に重なるのを避けるためにも、「aube」は「夜明け」としておきます。


Dans l'air de plus en plus clair, scintille encore cette larme ou faible flamme dans du verre quand du sommeil des montagnes monte une vapeur dorée.

これで 1 つの文です。
この文には 2 つ動詞が出てきます。「scintille」と「monte」です。
それぞれ主語は何か、また「monte」は自動詞か他動詞かを考える必要があります。
さらに、2 回出てくる「du」についても考える必要があります。

【単語の意味】

Dans 前置詞で「~の中に、~の中で」。
air 男性名詞で「空気、空(そら)」。
de plus en plus 熟語で「ますます」(英語の more and more に相当)。
clair 形容詞で「明るい」

scintille 規則動詞で自動詞 scintiller (きらめく、輝く)の活用した形。
encore 副詞で「まだ」(英語の yet に相当)。
cette 指示形容詞で「この、その、あの」。
larme 女性名詞で「涙」。

ou 等位接続詞で「または」(英語の or に相当)。
faible 形容詞で「弱い」。
flamme 女性名詞で「炎」。
verre 男性名詞で「ガラス」。

quand 従属接続詞で「...ときに」(英語の when に相当)。
sommeil 男性名詞で「眠り」。
montagnes 女性名詞 montagne (山)の複数形。

monte 規則動詞 monter (自動詞で「上(のぼ)る」または他動詞で「上げる」)の活用した形。
vapeur 女性名詞で「蒸気」。
dorée 形容詞 doré (金色の)の女性形。

【文法の解説】

この文は、「quand (...ときに)」の前で大きく 2 つに分かれます。「quand」の前までが主節、「quand」以降が従属節です。

まず、前半の主節を見ておきます。

 Dans l'air de plus en plus clair, scintille encore cette larme ou faible flamme dans du verre

熟語「de plus en plus」は、単に「ますます」というよりも、「ますます ...していく」と訳すとぴったりくる場合が多い表現です。
ここでは「de plus en plus (ますます)」が副詞的に形容詞「clair (明るい)」にかかり、これが名詞「air (空)」にかかっています。
「Dans l'air de plus en plus clair」で「ますます明るくなっていく空の中で」となります。これ全体が「場所を表す状況補語」となっています。

その後ろに、いきなり動詞「scintille (きらめく)」がきています。まだ主語は出てきていないので、つまり倒置になっています。
なぜ倒置になっているかというと、通常は文末に来るべき文の要素(状況補語など)が文頭に来ているので、それに釣られるようにして動詞も前に来て、倒置になったと考えられます。

主語は(つまり何が「きらめいている」のかというと)、一語でいえば「encore (まだ)」の後ろの「cette larme (あの涙)」です。
結論からいうと、「cette larme (あの涙)」というのは「月」の比喩ですが、これをさらに「ou (または)」の後ろの「faible flamme (弱い炎)」で言い換えています。

前置詞「dans (~の中に)」の後ろの「du」は少し説明が必要かもしれません。
そもそもフランス語の du には、次の 2 つがあります。

  前置詞 de と定冠詞 le の縮約形の du
  部分冠詞の du

前置詞が 2 つ続くということは(特殊なものを除いては)ありえないので、ここは部分冠詞の du ということになります。
「verre」という言葉は、「グラス、コップ」という意味なら数えられますが、材質としての「ガラス」という場合は数えられないので、冠詞をつける場合は部分冠詞をつけます。

ここまでを逐語訳すると、「ますます明るくなっていく空の中で、あの涙、またはガラスの中の弱い炎が、まだきらめいている」となります。

ちなみに、倒置ではない普通の語順に直すと、次のようになります。

  Cette larme ou faible flamme dans du verre scintille encore dans l'air de plus en plus clair.

「scintille」は自動詞 scintiller (きらめく)の現在(3人称単数)です。
主語は、「cette larme (あの涙)」と「faible flamme dans du verre (ガラスの中の弱い炎)」の 2 つあるのだから、動詞は 3 人称複数(つまり scintillent という形)にすべきだと思われるかもしれません。

しかし一般に、英語の A or B と同様、「A ou B (A または B)」が主語になる場合は、意味的に見て実質的にどちらか一方であれば、単数扱いになります(これは辞書で ou を引けば載っています)。
ここでは、詩人によって月は「涙」にも「ガラスの中の弱い炎」にも喩えられていますが、実際は月は一つしかないので、実質的にどちらか一方となるため、単数扱いとなっています。

内容的に補足しておくと、これは夜明けに見える月なので、月の左側だけが見える「下弦の月」のはずです。
特にこのあたりの比喩を見ると、いわゆる「有明の月」と呼ばれる、左端の部分だけが見える(つまり通常の三日月とは逆向きの形をした)細い月のような印象を受けます。

 quand du sommeil des montagnes monte une vapeur dorée.

次に、後半の「quand (...ときに)」以下の従属節の部分を見てみます。

さきほど見たように、フランス語の「du」は 2 種類あります
「sommeil (眠り)」という単語は、実はあまり部分冠詞をつけることはなく、むしろ定冠詞がつきます(ただし、形容詞がつくと不定冠詞がつきやすくなります)。
ですから、フランス語に数多く接していれば、「sommeil」の前の「du」は「前置詞 de と定冠詞 le の縮約形」ではないかという勘が働くはずです。

しかし、仮に「sommeil」の前の「du」が部分冠詞だったとしましょう。
そうすると、「du sommeil des montagnes (山々の眠り)」が主語(S)、「monte (上げる)」が他動詞(V)、「une vapeur dorée (金色の蒸気)」が直接目的(OD)となって、文法的には一応第 3 文型としての体裁は整いますが、「山々の眠りが金色の蒸気を上げる」となり、意味が変になってしまい、やはり無理があります。

今度は、「du」が「前置詞 de と定冠詞 le の縮約形」だとしてみましょう。
一般に、先頭に前置詞が付いているグループは主語にはなりえません。とすると、主語がないまま「monte」という動詞が出てくるので、ここは倒置であり、その後ろの「une vapeur dorée (金色の蒸気)」が主語ということになります。
もともと、monter という動詞は、前置詞 de とセットで、

  monter de ~ 「~から上(のぼ)る」

という使い方をすることが多い動詞です。この de ~ (~から)の部分が先に出てきたわけです。
倒置でない、通常の語順にすると、次のようになります。

  une vapeur dorée monte du sommeil des montagnes
    (山々の眠りから金色の蒸気が上る)

さきほどと同様、通常は文末に来るべき文の要素(状況補語など)が文頭に来ているので、それに釣られるようにして動詞も前に来て、倒置になったと考えられます。

内容的には、「金色の蒸気」とは朝日のことです。
つまり、平たく言えば、「山から朝日が昇るときに、だんだん明るくなる空で、まだ月が輝いている」となります。
しかし、上のような比喩を使うことで、これから勢いを増していく太陽の炎によって、ガラスが溶けるように月が見えなくなっていく様子が浮かび上がります。

圧倒的な勢いを誇ろうとする太陽よりも、むしろこれから消えていこうとしている月に、詩人は共感を寄せているといえます。

【ここまでの訳】

山々の眠りから金色の蒸気が上るときに、ますます明るくなっていく空の中で、あの涙、またはガラスの中の弱い炎が、まだ輝いている。

Demeure ainsi suspendue sur la balance de l'aube entre la braise promise et cette perle perdue.

これだけで独立した 1 つの文です。
この文全体の大きな動詞がどれで、主語がどれかを考える必要があります。

【単語の意味】

Demeure
 1. 女性名詞「邸宅・すみか、滞在、遅滞」
 2. 自動詞 demeurer (とどまる)(英語の remain に相当)の活用した形
ainsi
 副詞で「このように、そのように」
suspendue
 1. 他動詞 suspendre (ぶら下げる)の過去分詞 suspendu に女性単数の e がついた形
 2. 形容詞 suspendu (ぶら下がった、宙に浮いた)に女性単数の e がついた形

sur 
 前置詞「~の上に」
balance
 1. 女性名詞「天秤(てんびん)、均衡・バランス」
 2. 他動詞 balancer (揺り動かす、バランスを取る)の活用した形

entre
 1. 前置詞「~の間で」(英語の between, among)
 2. 自動詞 entrer (入る)の活用した形(英語の enter )
braise
 女性名詞「熾火(おきび)、赤くおこった炭火」
promise
 1. 他動詞 promettre (約束する)の過去分詞 promis に女性単数の e がついた形
 2. 形容詞 promis (約束された)に女性単数の e がついた形
cette
 指示形容詞で「この、その、あの」。

perle
 女性名詞「真珠」
perdue
 1. 他動詞 perdre (失う)の過去分詞 perdu に女性単数の e がついた形
 2. 形容詞 perdu (失われた)に女性単数の e がついた形

【文法の解説】

もともと派生語で、たまたま同じ形になっている(品詞の違う)言葉が結構あり、迷うかもしれませんが、わかりやすいところから確定していきます。

「balance」はその前に定冠詞がついているので名詞だとわかります。
さらに、意味的に考えて、

 la balance entre A et B (A と B との間のバランス)

となっていることが推測できます。
つまり、「約束された熾火(おきび)とあの失われる真珠との間のバランス」となります。
内容的には、「約束された熾火(おきび)」はこれから昇る朝日の比喩、「あの失われる真珠」は薄くなっていく月の比喩です。

このうち、「promis」は過去分詞とも形容詞とも取れます。もともとは、他動詞 promettre (約束する)の過去分詞です。 pro は接頭語なので、これを省けば mettre の活用と同じです。過去分詞は「~された」「~されている」の 2 通りの意味に解釈可能なので、「約束された」でも「約束されている」でもかまいません。この過去分詞の形がよく使われ、定着したので形容詞としてそのまま辞書に載っているだけです。

同様に「perdu」も、他動詞 perdre (失う)の過去分詞とも、完全に形容詞化しているとも取れます。ただ、辞書にそのまま載っている形で処理したい気持ちもわかりますが、このように外見上で見分けがつかず、分詞か形容詞かどちらか迷ったら、分詞と見なし、元の動詞に戻して意味を取ることをお勧めします。辞書で形容詞「perdu」を引くと、「失われた」という意味しか書いていないことが多いと思いますが、さきほどと同様、過去分詞は「受動態・過去」の意味にも「受動態・現在」の意味にも解釈可能なので、「失われた」ではなく「失われている」(または「失われる」)という日本語がぴったりする場合もあります。

「balance」と「entre A et B」の間には「de l'aube (夜明けの)」という言葉が挟まっています。「A と B との間のバランス」であると同時に、「夜明けのバランス」でもあるわけです。

以上で、「sur la balance de l'aube entre la braise promise et cette perle perdue」は「約束された熾火(おきび)とあの失われる真珠との間の、夜明けのバランスの上で」となります。

もともと「balance (バランス、均衡)」は「天秤(てんびん)」という意味なので、天秤の上に物を載せるイメージから、「sur (~の上で)」という前置詞が使われているのだと思われます。

さて、問題は「Demeure ainsi suspendue」の部分です。

この「Demeure」を女性名詞と取って「邸宅・すみか、滞在」などの意味だとすると、「このように宙に浮いたすみか」となります。こうすると、文法的には動詞がない不完全な文(正しくは文ではなく、名詞相当のまとまり)となり、意味的にも変です。

他方、「Demeure」が自動詞 demeurer (とどまる)だとすると、主語になりうるものがありませんが、これが命令文だとすれば問題ありません。
demeurer は第 1 群規則動詞なので、tu に対する命令の場合は tu の現在形の末尾の s が取れます

命令形なので、意味は「とどまれ!」となりますが、一般にフランス語の命令形は「命令」という言葉からイメージされるような高圧的な態度でのみ使われるのではなく、もっと相手を気遣うような優しい表現でも使われます(文法編の「命令文の用例と用法」の例文に目を通してください)。
ここでは、「とどまっていておくれ」という感じです。

さて、誰に対してこのように語りかけているのでしょうか。
この詩では、作者のほかに人間はおらず、太陽はこれから昇ろうとしているものの、まだほとんど姿を見せておらず、詩人の視線の先にあるのは「月」だけです。
そう、これはその「月」に対して呼びかけている詩人のせりふです。

demeurer という動詞を日本語一語で捉えようとするなら、「とどまる」という意味が一番応用範囲が広いかと思いますが、辞書で demeurer を引くと、「滞在する」という意味の「とどまる」のほかに、「(ある状態に)とどまる」、つまり「~のままでいる」という意味も載っています。例えば『ディコ仏和辞典』には次のような例文が記載されています。

  Il demeure malade. (彼は病気のままだ)

この使い方の demeurer は、文法編の「動詞の6分類」でいうと、第 2 文型を構成する「繋合動詞」に相当します。つまり être (~である)と同じタイプです。上の例文でいうと「Il」が主語(S)、「demeure」が動詞(V)、形容詞「malade」が属詞(C)で、第 2 文型です。

詩に戻ると、命令文なので主語(S)はありません。動詞(V)は「Demeure」で、命令形になっています。属詞(C)は「suspendue」です。
「suspendue」から e を省いた形は、もともと他動詞 suspendre (ぶら下げる)の過去分詞です。ちなみに、この sus は「上から」という意味の接頭語で(sur と同じ)、「pendre」は「吊るす」という意味なので、「上から吊るす」というのが元の意味です。
過去分詞になると「上から吊るされた」という意味になり、これが完全に形容詞化すると「ぶら下がった、宙に浮いた、宙ぶらりんの」というような意味になります。
ちなみに、これは英語の「suspens (サスペンス。宙ぶらりんだと精神的に落ち着かず、不安に駆られるため)」や「suspender (サスペンダー。ズボン吊り)」の語源となっています。

ここでは、「suspendu」は過去分詞と取ることもできますが、むしろ形容詞と取った方がすっきりします。

なぜ女性単数の e がついているかというと、「lune (月)」が女性名詞だからです。つまり、この命令文のベースには、次のような表現があると考えることができます。

  La lune demeure suspendue. (月が宙に浮いたままだ)

形容詞は「属詞的用法」では主語に一致するため、主語の「La lune (月)」に合わせて、女性単数の e がついているわけです。

「lune」という単語は、詩の題にしか出てきませんが、この詩の中では「月」が順に larme (涙)、flamme (炎)、perle (真珠)と言い換えられており、これらの単語はいずれも女性名詞で単数形なので、女性単数扱いされて当然です。

【ここまでの訳】

約束された熾火(おきび)とあの失われる真珠との間の夜明けのバランスの上で、そのように宙に浮いたままでいておくれ。



【全体の訳】

夏の夜明けの月

ますます明るくなっていく空の中で、
あの涙、またはガラスの中の弱い炎が
まだ輝いている。
山々の眠りから
金色の蒸気が上るときに。

そのように宙に浮いたままでいておくれ。
約束された熾火(おきび)と
あの失われる真珠との間の
夜明けの均衡の上で。














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