フランス語訳聖書 主の祈り
主の祈り ⇒ 「聖書」のトップに戻る
キリスト教における最も普遍的な祈り文句といえる「主の祈り」は、大多数のフランス人がそらんじていると思われます。接続法と命令形の練習にもなります。
「主の祈り」のことを、フランス語では出だしの言葉を取って Notre Père といいます。
もともとマタイによる福音書 6 章 9 ~ 13 節(およびルカによる福音書 11 章 2 ~ 4 節)でイエスが弟子達に教えた神への祈り方に由来しますが、現在キリスト教で定められている「主の祈り」では、聖書のテキストとは細かい文句が多少異なっています。
フランス語で神に対して呼びかける時は tu を使いますが、第二バチカン公会議以前は伝統的に vous が用いられていたため、辞書の例文に「主の祈り」が載っている場合は vous の形になっているかもしれません。
Notre Père qui es aux cieux,
que ton nom soit sanctifié,
que ton règne vienne,
que ta volonté soit faite sur la terre comme au ciel.
Donne-nous aujourd'hui notre pain de ce jour.
Pardonne-nous nos offenses,
comme nous pardonnons aussi à ceux qui nous ont offensés.
Et ne nous soumets pas à la tentation,
mais délivre-nous du mal.
Notre Père qui es aux cieux,
「Notre」は所有形容詞で「私達の」。「Père」は男性名詞で「父」。
「Notre Père」で「私達の父」となりますが、大文字で強調されているのでわかるように、「神」のことです。
「qui」は関係代名詞。「qui」の前から「cieux」の後ろまでがカッコに入って(関係詞節になって)、先行詞の「Notre Père」に掛かります。
「es」は être の現在(2人称単数)。通常であれば、「Notre Père (私達の父)」は 3人称単数扱いになるので、動詞も 3人称単数の「est」になるはずですが、呼びかける場合は相手が目の前にいるものとして意識されるため、動詞は 2人称( tu または vous の時の形)を使います。
ここでは、2 行目以下を見ればわかるように、「Notre Père」に対して tu で話しかけているため、êtes ではなく es になっています。
「aux」は à と les の縮約形。
「cieux」は男性名詞 ciel (空、天)の複数形。比喩的・宗教的な意味では複数形もよく使われますが、単数形でも複数形でも意味の違いはほとんど存在しません。実際、4 行目では単数形になっています。
【フランス語からの逐語訳】
「天にいる私達の父よ」
【プロテスタント訳】
「天にまします我らの父よ」
【カトリック訳(旧)】
「天にまします我らの父よ」
【カトリック訳(新)】
「天におられるわたしたちの父よ」
que ton nom soit sanctifié,
この 2 行目を(そして 3 行目と 4 行目も)大文字で始める場合もあります。
この行は、前後の行とは独立して、これだけで意味が完結しています。
文が que で始まっていて、どこにも掛からず(つまり独立節で)、 que の後ろが接続法になっていたら、「~されんことを」、「~しますように」という意味になり、祈願を表します。
「ton」は所有形容詞で、普通は(文法の練習などでは)便宜上「君の」と訳すことが多い言葉ですが、実際はその場に合わせて適当に訳す必要があり、神に向かって「君の」と訳すのは不適切なので、とりあえず「あなたの」としておきます。
「nom」は男性名詞で「名」。
「soit」は être の接続法現在(3人称単数)。
「sanctifié」は他動詞 sanctifier (神聖なものにする、あがめる)の過去分詞。
もし文頭の que がなければ(祈願の意味でなければ)、次のようになります。
ton nom est sanctifié (あなたの名はあがめられる)
「est sanctifié」は être + p.p. で受動態です。
souhaiter (希望する)を使って、「je souhaite que...」(私は... ことを希望する)と言う場合は、souhaiter que... の後ろは接続法になるので、次のようになります。
je souhaite que ton nom soit sanctifié.
(私はあなたの名があがめられることを希望する)
この 2 行目は(そして 3 行目と 4 行目も)、文頭に「je souhaite」が抜けていると考えることもできます。
【フランス語からの逐語訳】
「あなたの名があがめられますように」
【プロテスタント訳】
「願わくは み名をあがめさせたまえ」
【カトリック訳(旧)】
「願わくは み名の尊まれんことを」
【カトリック訳(新)】
「み名が聖とされますように」
que ton règne vienne,
この 3 行目も、これだけで意味が完結しています。
2 行目と同様、que + 接続法で「~しますように」という意味です。
「règne」は、自動詞 régner (君臨する、支配的になる)の現在(répéter と同じ活用をする動詞)の 1人称・3人称単数とまったく同じ形ですが、ここは男性名詞。
普通は「君臨、統治」という意味ですが、「国、王国」という意味もあり、キリスト教で「神の国」と言うときは le règne de Dieu といいます。
「vienne」は venir (来る)の接続法現在(3人称単数)。
【フランス語からの逐語訳】
「あなたの国が来ますように」
【プロテスタント訳】
「み国を来たらせたまえ」
【カトリック訳(旧)】
「み国の来たらんことを」
【カトリック訳(新)】
「み国が来ますように」
que ta volonté soit faite sur la terre comme au ciel.
この 4 行目も、que + 接続法で「~しますように」という意味。
「volonté」は女性名詞で「意思」。
「soit faite」の「soit」は être の接続法現在(3人称単数)、「fait」は他動詞 faire (行う)の過去分詞。「soit fait」で être + p.p. なので受動態になり、さらに主語(「volonté」)に合わせて過去分詞 fait には女性単数を示す e がついています。
「sur ~」は前置詞「~の上に」。
「terre」は前に la がついているのでわかるように女性名詞で「地球、土地、地面」。ここでは後で出てくる「天」と対比されているので「地」という感じです。
「sur la terre」で「地球上で、この地の上で」という意味。
「comme」は英語の as に相当する言葉で、接続詞にもなりますが、ここでは前置詞で「~のように」「~と同様に」。
「au 」は場所を表す前置詞 à と定冠詞 le の縮約形。
「ciel 」は 1 行目にも出てきた男性名詞で「空、天」。
【フランス語からの逐語訳】
「あなたの意思が天でと同様に地でも行われますように」
【プロテスタント訳】
「み心の天に成る如く地にもなさせたまえ」
【カトリック訳(旧)】
「み旨の天に行わるる如く地にも行われんことを」
【カトリック訳(新)】
「みこころが天に行われるとおり地にも行われますように」
Donne-nous aujourd'hui notre pain de ce jour.
「Donne」は他動詞 donner (与える)の命令形(tu に対する命令)。
第 1 群規則動詞の場合、現在形の tu の活用の末尾の s を取ると命令形になります。
donner は基本的に次のような使い方をする、第 5 文型をとる動詞です。
donner A à B (A を B に与える)
この A が直接目的(OD)、B が間接目的(OI )になり、 B には普通は「人」がきます。
ここでは、A に相当するのが「notre pain de ce jour」、 à B に相当するのが「nous」です。
「前置詞 à + 人」は、代名詞に置き換わると間接目的一語になり、 à は消えるため、ここも à B の à が消えて「nous」一語になっています。
命令形の場合は動詞の後ろにハイフンを入れて代名詞をつけます。
「aujourd'hui」は「今日」。「notre」は所有形容詞で「私達の」。「pain」は男性名詞で「パン」ですが、(表面上は)「主食としての食糧」という意味で使っています。
(キリスト教の教義としては、パンは象徴的にキリストの肉体を意味する等、聖体拝領(聖餐)に関連づけて解釈されているようですが、そのあたりのことは措いておきます)。
「de ce jour」の「de」は前置詞「~の」、「ce」は指示形容詞で「この、その、あの」という色々な意味になります。「jour」は男性名詞で「日」。「de ce jour」で、「この日の」または「その日の」となります。ここでは(表面上は)「今日というこの日の」という意味でしょう。
(キリスト教の教義としては、例えばカトリックでは「その日」とは来たるべき「主の日」のことも指すと解釈されているようです)。
昔のフランス語訳では、この部分は
notre pain quotidien (私達の日々のパン)
とも言われていました。「quotidien」は「日々の」という意味の形容詞です。
各種の日本語訳の「日用の」「日ごとの」というのは、むしろこの「quotidien」に対応しているようです。
【フランス語からの逐語訳】
「今日、この〔その〕日の私達のパンを私達に与えてください」
【プロテスタント訳】
「我らの日用の糧を今日も与えたまえ」
【カトリック訳(旧)】
「我らの日用の糧を今日我らに与え給え」
【カトリック訳(新)】
「わたしたちの日ごとの糧を今日もお与えください」
Pardonne-nous nos offenses,
comme nous pardonnons aussi à ceux qui nous ont offensés.
Pardonne-nous nos offenses
「Pardonne」は pardonner (〔罪などを〕許す)の命令形。ここでは、
pardonner A à B (A を B に許す)
という使い方をしています(第 5 文型をとる直接他動詞(2)のタイプ)。
A に「事柄」(罪など)、B に「人」がきます。
ここでは、A が「nos offenses」、 à B がさきほどと同様に「nous」一語になっています。
「offense」は女性名詞で「罪、侮辱」(スポーツで「ディフェンス」の反対の「オフェンス」の意味にもなりますが、ここは無関係です)。
comme nous pardonnons aussi à ceux qui nous ont offensés
「comme」は、さきほどは前置詞として出てきましたが、ここでは後ろに節(小さな S + V を含むグループ)がきているので接続詞です。
英語の as と同様、フランス語の comme は「...のように」という「類似」の意味になる場合と、「...なので」という軽い「理由」の意味になる場合がありますが、キリスト教では「...のように、...と同じように」の意味に解釈されています(下記文語訳では「如く」)。
「pardonnons」は pardonner (許す)の現在(1人称複数)。前の行とは少し使い方が異なり、ここでは
pardonner à ~ (~を許す)
という間接他動詞として使っています(「~」の部分に「人」がきます)。
「ceux」は関係代名詞の先行詞になると、「...な人々」という意味。
「ont」は助動詞 avoir の現在(3人称複数)。「offensé」は他動詞 offenser (傷つける、気分を害する)の過去分詞。
「ont offensé」(avoir + p.p.)で複合過去です。この他動詞 offenser の直接目的(OD)が「nous (私達を)」です。avoir + p.p. の場合は、OD が動詞よりも前にくる場合に OD に過去分詞の性数を一致するので、「nous」に合わせて過去分詞「offensé」に男性複数を表す s がついています。
名詞「offense」が「罪」という意味なので、他動詞 offenser は「罪を犯す」という意味になりそうなものですが、この動詞は直接目的が Dieu (神)の場合のみ、「offenser Dieu」で「神に対して罪を犯す、神に背く」となるので、フランス語としては offenser は「(心理的に)傷つける、気分を害する」の意味で取るしかありません。
「ceux qui nous ont offensés」で「私達を傷つけた人々」「私達の気分を害した人々」となります。
「aussi」は「~もまた」〔英語の too〕。ここでは、内容的には「comme」の前のことを受けて「私達もまた」と言っているので、できれば先に「comme」の前を訳したほうが、「もまた」という言葉が生きてきます。
【フランス語からの逐語訳】
「私達に私達の罪を許してください。私達もまた私達を傷つけた人々を許すように」
【プロテスタント訳】
「我らに罪を犯す者を我らが赦す如く我らの罪をも赦したまえ」
【カトリック訳(旧)】
「我らが人に許す如く我らの罪を許し給え」
【カトリック訳(新)】
「わたしたちの罪をおゆるしください。わたしたちも人をゆるします」
Et ne nous soumets pas à la tentation,
mais délivre-nous du mal.
Et ne nous soumets pas à la tentation
「Et (そして)」の後ろは ne と pas で挟まって否定になっています。
語順からして、「soumets」が動詞で「nous」は主語以外の代名詞だとわかります。
「soumets」は接頭語 sou- (下に)がついているので、これを省くと mets となります。mets は他動詞 mettre (置く)の現在 1人称・2人称単数と同じ形ですが、ここには je も tu もなく、主語がないので(tu に対する)命令形です。
sou- (下に) + mettre (置く)でできた他動詞 soumettre は、「従わせる、委ねる」という意味です(英語は submit ですが多少意味がズレます)。
この動詞は、
soumettre A à B (A を B に従わせる、委ねる)
という使い方をします。ここでは A が「nous (私達を)」、 B が「la tentation (誘惑、試すこと)」。つまり「nous」は直接目的です。
mais délivre-nous du mal
「mais」は「しかし」というよりも、ここでは「そうではなく」という感じです。
「délivre」は他動詞 délivrer (開放する)の tu に対する命令形。さきほどと同様、第 1 群規則動詞の場合は、現在形の tu の活用の末尾の s を取ると命令形になります。
この délivrer も
délivrer A de B (A を B から開放する・救い出す)
という使い方をします。ここでは A が「nous」、 B は縮約形「du」を de + le に分けたうちの le を含む「le mal」です。
「mal」は副詞「悪く」という意味もありますが、ここでは男性名詞で「悪」。
「私達を悪から救い出す」となります。
【フランス語からの逐語訳】
「私達を誘惑に委ねないでください、
(そうではなく)私達を悪から救い出してください」
【プロテスタント訳】
「我らを試みに遭わせず
悪より救い出したまえ」
【カトリック訳(旧)】
「我らを試みに引き給わざれ
我らを悪より救い給え」
【カトリック訳(新)】
「わたしたちを誘惑におちいらせず、
悪からお救いください。」
参考: Notre Père が掲載されているサイト
【フランス語】
Catéchisme de l'Église Catholique (カトリック教会のカテキズム)
Compendium du Catéchisme de l'Église Catholique (同要約、コンペンディウム)
(「la prière du Seigneur : le Notre Père」の項目:問答 No. 578 以降)
Conférence des évêques de France (フランス司教協議会)
句読点(コンマ、ピリオド)の打ち方や大文字・小文字の区別、行分けについては、多少異なって表記される場合があります。
【日本語】
エルサレムの主の祈りの教会(Basilique du Pater Noster)の壁に飾られたタイル
Vous êtes le 22295ème visiteur sur cette page.
aujourd'hui : 3 visiteur(s) hier : 4 visiteur(s)
本サイトは、北鎌フランス語講座 - 文法編の姉妹サイトです。あわせてご活用ください。