「北鎌フランス語講座 - 文法編」と連動し、短い例文を使って徹底的に文法を説明し、構文把握力・読解力の向上を目指します。

格言集

格言集 1      ⇒ 「格言・名言」のトップに戻る

このページでは、ラ・ロシュフーコー(1613-1680)の『マクシム』(格言集、箴言集)の中から、恋愛関係の格言を拾ってみます。

17 世紀の文ですが、現代の文法とほとんど同じです(違う場合のみ注記します)。


Il est impossible d'aimer une seconde fois ce qu'on a véritablement cessé d'aimer.

【訳】
本当に愛するのをやめた人を、もう一度愛することは不可能だ。

【意味的な補足・蛇足】
完全に愛想を尽かして気持ちが吹っ切れた相手に、もう一度恋愛感情を抱くということはありえない。

【単語の意味と文法】
「Il」は de 以下を指す仮主語の il で、「Il est impossible de ~」で「~することは不可能だ」。
「est」は être (である)の現在(3人称単数)。
「impossible」は形容詞で「不可能な」。
「aimer」は他動詞で「愛する」。その直接目的は「ce qu'on a véritablement cessé d'aimer」全体です。
「seconde」は形容詞 second (第二の)の女性単数の形。
「fois」は女性名詞で「回、度」。
「une seconde fois」で「二度目に」、つまり「もう一度」。

「ce」は関係代名詞の先行詞になると、「...なもの」「...なこと」という意味になる(つまり「物」を指す)のが原則ですが、『ロワイヤル仏和中辞典』で ce を引くと、「注意 5 ce は稀に人を指すことがあるが、多くは <<古>> 」と書かれています。 17 世紀のフランス語は、ほとんど現代のフランス語と同じですが、このように若干、現代とは異なる点もあります。
ただ、日本語の「もの」も、「者」という漢字を当てて人を表す場合もあるので、あまり違和感はないかと思います。

「qu'」は関係代名詞 que と同じ。
「on」は漠然と「人は」。訳さないほうがうまくいきます。
「a」は助動詞 avoir の現在(3人称単数)。
「véritablement」は副詞で「真に、本当に」。
「cessé」は他動詞 cesser (やめる)の過去分詞。
「a cessé」で avoir + p.p. なので複合過去です。

cesser は辞書を引くと、「cesser de + 不定詞」で「~するのをやめる」という使い方が載っているはずです。 cesser d'aimer で「愛するのをやめる」となります。
この最後の「aimer」の意味上の直接目的が先行詞になっているので、関係代名詞 que が使用されています。

【出典】
ラ・ロシュフーコー『マクシム』, No.286

En amour celui qui est guéri le premier est toujours le mieux guéri.

【逐語訳】
愛においては、最初に治る人が、つねに最もよく治る。

【意訳】
愛においては、最初に傷が癒えた者のほうがつねに痛手が少ない。

【単語の意味と文法】
「En」は、フランス語の 3 種類の en のうち、名詞の前にあるので前置詞の en です。「~において」という意味です。
「amour」は男性名詞で「愛」。前置詞の en の後ろなので無冠詞になっています。
celui は関係代名詞の先行詞になると「...な人」という意味。
「qui」が関係代名詞で、「qui est guéri le premier」が関係詞節になります(カッコに入ります)。
「est」は être (である)の現在(3人称単数)。
「guéri」は、もともと他動詞 guérir (〔病気や傷を〕治す)の過去分詞ですが、これを être + p.p. で受動態と取ると、直訳すると「治される」となり、理屈を言えば「なぜ受動態なのか(誰によって治されるのか)」説明しにくくなるので、辞書には「guéri」の形のまま載っており、形容詞で「〔病気や傷が〕治った」と書かれています。
このように、受動態とするよりも、単に être (である)の後ろに形容詞が来ているとしたほうが、説明しやすくなります。
ここでは、 être guéri で「恋の病(やまい)から治る」、「恋愛の破局で負った傷が癒える」というような意味です。

「premier」は形容詞で「最初の」というのが一番大きな意味ですが、辞書を引くと、名詞として「最初の人、最初のもの」という意味もあります。この場合、定冠詞がつき、主語に合わせて変化します。例えば、辞書にはよく「arriver le premier (最初に到着する)」という用例が載っていますが、主語が女性単数であれば「arriver la première」となります。
なぜかというと、「le premier」は文法的には「主語と同格」だからです。一番フランス語の感じに近づけると「最初の人として」到着するですが、要するに「最初に」到着すると同じことになります。
この格言でも、フランス語の感じに近づけると「最初の人として」治るですが、要するに「最初に」治るということです。

次の「est... guéri」はさきほどと同様です。
「toujours」は副詞で「つねに」。
「mieux」は bien (良い、良く)の比較級・最上級
定冠詞 le がついているので最上級です。
「le mieux」はこの文の中では副詞的な要素なので、「最も良く」ですが、2 つの中で比較する場合でも最上級を使用するので、最終的には日本語だと「~のほうが...」と訳したほうがぴったりきます。

【出典】
ラ・ロシュフーコー『マクシム』, No.417

La jalousie se nourrit dans les doutes, et elle devient fureur, ou elle finit, sitôt qu'on passe du doute à la certitude.

【訳】
嫉妬は疑念のなかで育(はぐく)まれ、疑いから確信へと移るやいなや、激怒に変わるか、または終わる。

【意味的な補足・蛇足】
相手が浮気をしているのではないかという疑念が確信に変わった場合、怒り狂うか、または(恋愛感情が消えるのと同時に)嫉妬の気持ちが消えるか、どちらか一つだ。

【単語の意味と文法】
「jalousie」は女性名詞で「嫉妬」。
「nourrit」は第 2 群規則動詞で他動詞の nourrir(〔食べ物を与えて〕養う・育む)の現在(3人称単数)。
この直接目的が再帰代名詞 se なので「自らを養う・育む」、つまり「養われる、育まれる」という受身的な意味になります。
「doute」は男性名詞で「疑い、疑念」。あれやこれやと疑念が浮かんでくるので、複数形になっています。
ここでいったん文が終わり、接続詞「et(そして)」によって以下につながっています。

「elle」は「jalousie(嫉妬)」を指します。
「devient」は devenir(~になる、~に変わる)の現在(3人称単数)。devenir は venir と同じ活用をする動詞です。
「fureur」は女性名詞で「激怒」。

接続詞「ou(または)」の後ろの「elle」も「jalousie (嫉妬)」を指します。
「sitôt que...」は「...するとすぐに」(接続詞句)。
「on」は漠然と「人は」。訳さないほうがうまくいきます。内容的には、ここでは嫉妬を抱いた人を指します。
「passe」は自動詞 paser(通過する)の現在(3人称単数)。ここでは、

  paser de A à B (A から B に移行する・変化する)

という使い方をしています。 A は縮約形「du」を de と le に分けたうちの「le doute」、 B は「la certitude」です。
「doute」は男性名詞で「疑い」。さきほどは、さまざまな具体的な個別の「疑い」だったので複数形でしたが、ここでは「疑いというもの」という感じで一般化・概念化して捉えられているので単数形になっています。
「certitude」は女性名詞で「確信」。

【出典】
ラ・ロシュフーコー『マクシム』, No.32

Quelque rare que soit le véritable amour, il l'est encore moins que la véritable amitié.

【逐語訳】
本当の愛がいかに稀なものであろうとも、本当の友情ほど稀ではない。

【意訳】
本当の愛はとても稀だが、本当の友情はもっと稀だ。

【単語の意味と文法】
コンマの前までが従属節(ここでは副詞節)、コンマの後ろが主節です。
「Quelque ~ que + subj.」は「いかに~しようとも(~であろうとも)」という意味。「接続法による譲歩の熟語表現」の一つで、「Quelque」は「Si」で置き換え可能です。
この que の後ろの動詞は自動的に接続法になります。そのため、être の接続法現在(3人称単数)である「soit」が使われています。
「rare」は形容詞で「稀な」。
「véritable」は形容詞で「本当の、真の」。名詞の前に置かれることが多い形容詞です。
「amour」は男性名詞で「愛」。
このコンマの前までは、次の文がベースにあると考えることができます。

  Le véritable amour est très rare. (本当の愛は非常に稀だ)

コンマの後ろ(主節)を見ていくと、「il」は「le véritable amour (本当の愛)」を指します。
「est」は être (である)の現在(3人称単数)。 être はいわゆる繋合動詞です。
その前についている「l'」は、 le が母音の前で e が ’ に変わった形。
フランス語には 3 種類の le がありますが、繋合動詞の前にある場合は「中性代名詞の le 」で、前に出てきた形容詞を指します。ここでは「rare (稀な)」を指しています。
le を使わないで書き換えると、コンマ以下は次のようになります。

  il est encore moins rare que la véritable amitié.

この「rare」が le に置き換わり、代名詞になると動詞の前に移動するので、「est」の前に出たわけです。

「encore」は比較級の前に置くと、比較級を強めて「ずっと、はるかに、さらにいっそう」という意味。
「moins... que ~」は英語の less... than ~ に相当する劣等比較の表現。
「moins rare que ~」を直訳すると、「~よりも、より少なく稀だ」となりますが、 moins = ne pas plus なので、要するに「~ほど稀ではない」という意味です。

【出典】
ラ・ロシュフーコー『マクシム』, No.473

Il y a de bons mariages, mais il n'y en a point de délicieux.

【訳】
良い結婚は存在するが、甘美な結婚は存在しない。

【意味的な補足・蛇足】
結婚して良かったと思えるような結婚は存在するが、(そして他方、夢見るような「甘美な恋愛」は存在するが)、「甘美な結婚」というものは存在しない。
(恐らく、結婚すると現実と向き合わざるをえなくなるため)。

【単語の意味と文法】
「Il y a ~」は「~がある、~が存在する」
その後ろの「de」は「冠詞の de」で、「複数の形容詞+複数の名詞」の前では、不定冠詞 des は de になるという規則によるもの。
「bons」は形容詞 bon (良い)の男性複数形。
「mariages」は男性名詞 mariage (結婚)の複数形。
ここでいったん文が終わります。

「mais(しかし)」の後ろは、「il y a(~がある、~が存在する)」と「ne... point (まったく... ない)」が組み合わさっています。
ただし、17 世紀には ne... point という表現は今よりも頻繁に使われ、ほとんど現代の ne... pas と同じように使われていたので、訳には「まったく」という言葉は入れないでおきます。

これに「en」が入り込んでいます。フランス語には 3 種類の en がありますが、動詞の直前にあったら中性代名詞の en です。
中性代名詞の en を使わずに「mais」の後ろを書き換えると、次のようになります。

  il n'y a point de mariages délicieux (甘美な結婚は存在しない)

「délicieux」は形容詞で「甘美な、うっとりするような、おいしい」。英語の delicious(おいしい、デリシャス)の元になった単語です。
もともと x で終わる単語なので単複同形ですが、ここは直前の名詞「mariages (結婚)」が複数形なので、それに合わせて「délicieux」も複数形です。
「mariages」の前についている「de」は、「否定文では直接目的語には de をつける」という規則によるものです。

さて、このように書き換えると、同じ「mariages」という名詞が 2 回出てくることになるので、2 回目は代名詞に置き換えたくなります。ここでは、意味的に英語の it ではなく one に相当する言葉、つまり中性代名詞の en を使う必要があります。
このとき、名詞「mariages」だけが en に置き換わって動詞の直前に移動し、冠詞の de は消えます
そうすると、「délicieux」という形容詞だけが後ろに残ることになるので、新たに前置詞の de がつきます

このように、en を使わずに書き換えた場合の「de」は、前述のように「否定文では直接目的語には de をつける」という規則による「冠詞の de」でしたが、 en を使った場合(表題の文)の「de」は、「後ろに形容詞が残る場合は形容詞の前に de を置く」という規則によるもので、この 2 つの de はまったく異なります。

【出典】
ラ・ロシュフーコー『マクシム』, No.113

La jalousie naît toujours avec l'amour, mais ne meurt pas toujours avec lui.

【訳】
嫉妬はつねに愛とともに生まれるが、つねに愛とともに死ぬとは限らない。

【意味的な補足・蛇足】
愛情がなくなってからも、嫉妬の感情は残り続けることもある。

【単語の意味と文法】
「jalousie」は女性名詞で「嫉妬」。
「naît」は自動詞 naître の現在(3人称単数)。
「toujours」は副詞で「つねに」。
「avec」は前置詞で「~とともに、~と一緒に」。
「amour」は男性名詞で「愛」。
コンマの前までで、いったん文が終わっています。

「mais」は接続詞で「しかし」。
その後ろは、主語がないので、前に出てきた「La jalousie (嫉妬)」がコンマ以降の文の主語も兼ねています。
つまり、「naît toujours avec l'amour」と「ne meurt pas toujours avec lui」は並列になっています。
「meurt」は自動詞 mourir の現在(3人称単数)。
これを ne... pas で挟んで否定になっています。

なお、否定の「pas」の後ろに「toujours (つねに)」を置くと、「つねに... というわけではない」「つねに... とは限らない」という「部分否定」の意味になります。

「lui」は、人称代名詞。一般に、lui には間接目的(男性・女性)と強勢形(男性)の 2 つがありますが、ここは前置詞の後ろなので強勢形です。前に出てきた「l'amour (愛)」を指しています。

【出典】
ラ・ロシュフーコー『マクシム』, No.361

On peut trouver des femmes qui n'ont jamais eu de galanterie; mais il est rare d'en trouver qui n'en aient jamais eu qu'une.

【訳】
色恋沙汰をまったく経験したことがない女性を見つけることはできる。しかし、色恋沙汰を一度しか経験したことがない女性を見つけることは稀である。

【単語の意味と文法】
「on」は漠然と「人は」。ここは訳さないほうがうまくいきます。
「peut」はいわゆる準助動詞pouvoir (~できる)の現在(3人称単数)。
「trouver」は他動詞で「見つける」。これは特に前置詞 de と一緒に使う動詞(つまり間接他動詞または直接他動詞(2)のタイプの動詞)ではないので、この後ろの「des」は縮約形の de ではなく、単に不定冠詞の複数の des です。
「femme」は「女性」。
この「des femmes (女性たち)」が先行詞になり、関係代名詞「qui」がかかっています。
「ne... jamais」は「決して... ない」
「ont」は助動詞 avoir の現在(3人称複数)。
「eu」は avoir の過去分詞。こちらの avoir は「持つ」という意味の本動詞として使われています。
avoir + p.p. で複合過去になっており、ここでは「~したことがある」という「経験」を表します。
「n'ont jamais eu」で、直訳すると「決して持ったことがない」となります。
その後ろの「de」は、否定文では直接目的語には de をつけるという規則による「冠詞の de」。
「galanterie」は女性名詞で、現在では主に「女性に対する礼儀正しさ」という意味で使われますが、古くは「色恋沙汰」という意味でした。仏和辞典には「文」または「古」として「情事、色事」などと載っています。どちらかというと、その場の雰囲気や駆け引きによって偶発的に肉体関係にまで発展する、男女間の出来事というイメージがあります。
その後ろのポワンヴィルギュルは、日本語の「。」(句点)に相当します。

接続詞「mais (しかし)」の後ろは、il est ~ de ~ (~することは~だ)という仮主語の il を使った表現です。
「rare」は形容詞で「稀な」。つまり「il est rare de ~」で「~することは稀だ」となります。
他動詞「trouver (見つける)」は前半でも出てきましたが、この前に「en」がついています。これは、3 種類の en のうち、動詞の直前にあるので中性代名詞の en です。結論から言うと次のように書き換え可能です。

  mais il est rare de trouver des femmes qui...
    (...な女性を見つけることは稀である)

意味的には、「qui」以下のタイプの女性たちは、前に出てきた(色恋沙汰をまったく経験したことがない)女性たちとは別の人々です。これを人称代名詞 les で受けると、前に出てきた女性たちと同じ人々を指すことになってしまいます。意味的に別の物や人を指すようにするには、「中性代名詞 en その 2 :不特定の同類の名詞を指す en」を使う必要があります。
この場合、「femmes」が中性代名詞 en に置き換わって動詞の直前に移動し、前についていた不定冠詞の複数 des は消えます

次に、関係代名詞「qui」の後ろを見ていきます。
まず、動詞「aient」は、助動詞 avoir の接続法現在(3人称複数)です。なぜ接続法になっているかというと、「主節が否定文の場合は、関係詞節内の動詞は接続法になる」という規則があるからです。
「aient」だけ取り出すと接続法現在ですが、後ろの「eu」が avoir の過去分詞なので、合わせて「接続法過去」になっています。

動詞の前後では、ne... jamais (決して... ない)ne... que ~ (~しか ...ない)が組み合わさって ne... jamais que ~ (決して~しか... ない)となっています。最終的には、強調の「jamais (決して)」は訳さないほうが自然になります。

さて、ここでもまた「en」が使われています。さきほどと同じ「中性代名詞 en その 2 :不特定の同類の名詞を指す en」です。「en」を使わないで書き換えると次のようになります。

  ...qui n'aient jamais eu qu'une galanterie.
    (一度しか色恋沙汰を持ったことがない...)

この「galanterie」が中性代名詞 en に置き換わって動詞の直前に移動し、前についていた une は後ろに置き去りになったわけです。

【出典】
ラ・ロシュフーコー『マクシム』, No.73

Il y a peu d'honnêtes femmes qui ne soient lasses de leur métier.

【訳】
自分の務めにうんざりしていない貞淑な女性はほとんどいない。

【意味的な補足・蛇足】
貞淑な女性のほとんどが、「貞淑な女」を演じることに厭き厭きしている。

【単語の意味と文法】
「Il y a ~」は「~がある、~が存在する」
「peu de ~」は「ほんのわずかな~(...しかない)」。「~」の部分には無冠詞名詞がきます。「peu de」は冠詞の代わりとなる言葉(量を表す形容詞句)だからです。
「de」を省いた副詞的な形で言うと、「un peu」は「少し」(英語の a few, a little に相当)ですが、「peu」単独だと「ほとんど...ない」(英語の few, little に相当)となり、ほとんど否定と同じような意味になります。
以上をまとめると、「Il y a peu de ~」は直訳だと「ほんのわずかな~が存在する」ですが、要するに「~はほとんど存在しない」という意味になります。

「honnête」は形容詞で、「正直な」というのが一番大きな意味(英語に入ると honest)ですが、ここでは「(女性が)貞淑な」。主に、妻となった女性が「夫以外の男性とは関係を持たない」という意味です(ただし、未婚の女性が「男性と関係を持たない」という意味にもなります)。辞書で honnête を引くと、この意味は「古風」だと書いてありますが、「貞淑」という日本語も古風といえば古風です。

「femme」は女性名詞で「女性」または「妻」。
ただし、昔(17 世紀当時)は femme は「fille (娘、未婚女性)」との対(つい)で「既婚女性」という意味もあったので(Academie 1ère éd. (1694) による)、ここも「既婚女性」というイメージが強いかと思います。
「qui」は関係代名詞。
「soient」は être (~である)の接続法現在(3人称複数)。
なぜ接続法になっているかというと、「主節が否定文の場合は、関係詞節内の動詞は接続法になる」という規則があるからです。
ここは狭義の否定文ではありませんが、前述のように「peu」はほとんど否定と同じで、ほとんど否定と意識されています。

この前に「ne」がありますが、pas またはそれに準じる言葉がありません。ここは ne の単独使用(ne だけで否定を表す)です。これは、辞書で「ne」を引いても載っていますが、主節が否定文・疑問文の場合は、関係詞節内では ne だけで否定になるからです。

「lasses」は形容詞 las の女性複数の形。「うんざりした、厭き厭きした」という意味ですが、これは前置詞 de と一緒に使う形容詞で、

  las de ~ (~にうんざりした、~に厭き厭きした)

という使い方をします。

「leur」は所有形容詞で、前に出てきた「honnêtes femmes」を指します。
「métier」は男性名詞で「仕事、職務・務め」。ここでは「女性は貞淑でなければならない」という「務め」(義務、道徳的な規範)です。
「femmes」が複数形なのに「métier」が単数形なのは、意味的に言って、どの女性も従わなければならないとされていた規範が同じ一つの事柄だからでしょう。

【出典】
ラ・ロシュフーコー『マクシム』, No.367

Il est plus difficile d'être fidèle à sa maîtresse quand on est heureux que quand on en est maltraîté.

【訳】
愛する女につれなくあしらわれているときよりも、幸せなときのほうが、愛する女に忠実でいるのは難しい。

【意味的な補足・蛇足】
つれない態度を取られると、相手の気を取り持とうとして浮気などしないものだが、逆に好かれていると、油断して浮気をしてしまうものだ。

【単語の意味と文法】
この文だけで独立した意味を持つ格言で、いきなり「Il est...」と出てきているので、「Il」は前に出てきた「彼」や男性名詞を指すのでないことは明らかです。
ここは de 以下を指す仮主語の il で、「Il est difficile de ~」で「~することは困難だ」。
これに「plus」が入っています。「ne... plus」なら「もはや ... ない」ですが、ここは ne がないので、もちろんそれとは関係ありません。形容詞の前についているので、比較級を作る plus です。比較級は、基本的に「比較の que 」と一緒に使います。この文でも、だいぶ離れていますが、「que」が出てきます。
何と何が比較されているかというと、普通は 2 つのものを比較する場合、似たような言葉同士が比較されます。ここは、「quand on est heureux」と「quand on en est maltraîté」が比較されています。「quand」は接続詞で「...ときに」という意味なので、「quand」以下はどちらも「時」ないし場合・状態を表す状況補語となります。

その前から順に見ておくと、「être」は「~である」
「fidèle」は形容詞で「忠実な」。前置詞 à と一緒に使うことが多く、「fidèle à ~」で「~に忠実な」となります。「sa」は所有形容詞で「自分の」
「maîtresse」は女性名詞で、普通は「愛人」という意味ですが、例えば『ロワイヤル仏和中辞典』には「古」として「愛する女」という意味も載っています。
「être fidèle à sa maîtresse」は逐語訳すると「自分の愛する女に忠実でいる」となりますが、要するに「浮気をしない」という意味でしょう。

最初の「quand... (...ときに)」の後ろを見ると、「on」は漠然と「人は」。訳さないほうがうまくいきます。
「est」は être (~である)の現在(3人称単数)。
「heureux」は形容詞で「幸せな」。

2 つめの「quand」の後ろは、まず最後の「maltraîté」は他動詞 maltraîter (冷たくあしらう)の過去分詞。この動詞は、もともと、接頭語 mal (悪く)と他動詞 traîter (「扱う」。英語に入ると treat )がくっついてできた言葉です。
直前の「est」とセットで、être + p.p. で受動態になっています。

その前についている「en」は 3 種類の en のうち、動詞の直前にあるので中性代名詞の en で、ここでは「中性代名詞 en その 1 :「de + 物」に代わる en」です。結論から言うと、「en」を使わないと次のように書き換え可能です。

  ... quand on est maltraîté de sa maîtresse.

この「de」は何かというと、通常、受動態では「~によって」を意味する前置詞は par (英語の by に相当)を使いますが、動詞によっては(「状態」を表す意味の場合) par よりも de が使われ、「~から」に近い感じになります
ここも、「愛する女によって」「愛する女から」という意味です。

さて、「中性代名詞 en その 1 :「de + 物」に代わる en」は、基本的に「人」は指さず、「物」や「事柄」を指します
しかし、ここでは意味的に、「sa maîtresse (愛する女)」を指すとしか取れません。
このように、このタイプの中性代名詞 en が「de + 人」に置き換わることも、ないわけではありません(『法の精神』のページでも出てきます)。辞書・参考書の類を参照してみると、

  1. 『ロワイヤル仏和中辞典』で en を引くと、「注意 12」に「一般に en は物を指し、人を指す場合は < de + 人称代名詞強勢形 > を用いる」が、例外的に、「感情」や「運動」を表す動詞およびその他の若干の動詞の場合は、「en は人を指すことができる」ことが記載されています(ただし、ここでは該当しません)。
  2. 新フランス文法事典』 p.193 には、「en の代理する語が直前にあって、人を表わすことが明らかなときには人の代理をすることもまれではない」と書かれています。
  3. 小学館ロベール仏和大辞典』で en を引くと、「en は一般に物を受け、人を受けるのは古風な用法」と書かれています。

ここでは、2 の説明(直前にあって、人を表わすことが明らか)と 3 の説明(古風な用法)が一番ぴったりきます。
ということで、「en」は「それ」ではなく「彼女」と訳すことができます。

ちなみに、各種辞書で en を引けば載っているように、通常は「物」ではなく「人」の場合は en ではなく人称代名詞の強勢形を使用するので、次のようになります。

  ... quand on est maltraîté d'elle.

「elle」は人称代名詞の強勢形の 3 人称単数(女性)の形です。前置詞の後ろなので強勢形になります。

【出典】
ラ・ロシュフーコー『マクシム』, No.331

Dans l'amour la tromperie va presque toujours plus loin que la méfiance.

【訳】
愛においては、「だますこと」は「疑うこと」よりもほとんどつねに上手(うわて)を行く。

【意味的な補足・蛇足】
愛においては、だましているのを見破る場合よりも、だまされてしまう場合のほうが圧倒的に多い。「恋は人を盲目にする」ので。

【単語の意味と文法】
「Dans」は前置詞で「~の中で」。「~において(は)」とするとうまくいく場合がよくあります。
「amour」は男性名詞で「愛」。
「tromperie」は女性名詞で「だますこと」。もともと tromper (だます)という他動詞から派生した言葉です。
「va」は自動詞 aller (行く)の現在(3人称単数)。
「presque」は副詞で「ほとんど」。「toujours」は副詞で「つねに」。
「plus... que ~」は比較級の表現で「~よりも...」
「loin」は副詞で「遠くに」。
「méfiance」は女性名詞で「不信、疑うこと」。

aller plus loin que ~ は、直訳すると「~よりも遠くに行く」ですが、辞書で loin を引くと熟語欄に載っており、「~よりも進む、~を追い越す」などと書かれています。
要するに、「~よりも遠くに行く」から考えうる比喩的なさまざまな意味になります。
ここでは、「~よりも一歩上回る」、「~よりも上手(うわて)を行く」という感じです。

【出典】
ラ・ロシュフーコー『マクシム』, No.335

















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