「北鎌フランス語講座 - 文法編」と連動し、短い例文を使って徹底的に文法を説明し、構文把握力・読解力の向上を目指します。

その他の格言・名言

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このページでは、その他の格言を拾ってみます。



Si mince qu'il soit, un cheveu fait de l'ombre.

【単語の意味と文法】
「si ~ que...」で「que」の後ろに être の接続法がくると、「いかに~であろうとも」
「mince」は形容詞で「薄い」。
「soit」は être の接続法現在 3人称単数。

「cheveu」は男性名詞で「髪の毛」。ふつうは複数形で使い、定冠詞をつけて les cheveux とするか、または所有形容詞をつけて mes cheveux (私の髪)などとします。あえて単数形で un cheveu とすると、「一本の髪の毛」。
「fait」は他動詞 faire (作る、する)の現在 3人称単数。
「ombre」は女性名詞で「陰」。

さて、問題は「il」と「de」です。

この文は「格言」で、これだけで完結しているので、「il」が前に出てきた何かを指すということはありえません。

代名詞は普通は前に出てきた名詞を指しますが、従属節が前にきた場合は、従属節の中の代名詞が、後ろにくる主節の中の名詞を指すことができます。
ここでは、この「il」は「un cheveu」を指します。

前半(従属節)は、「それ(一本の髪の毛)は、いかに細かろうとも」となります。

後半(主節)は、もともと faire が前置詞 de とセットで使うことが多く、

  faire A de B 「B から A を作る」

のような使い方をすることが多いので、ここも一見すると、そうではないかと思ってしまいがちです。
しかし、そうだとすると、A (直接目的)に相当するものがありません。いわゆる「絶対的用法」というのも存在しますが、仮にそうだとすると、「一本の髪の毛は、陰から作る」となり、意味不明になるので、この解釈は成り立ちません。

見方を変えて、「un cheveu」が主語、「fait」が動詞(他動詞)、「de l'ombre」が直接目的だとしてみます。
しかし、直接目的語の前には前置詞はつかないはずです。
そのとおり、この「de」は前置詞ではありません。そうではなく、「de l'」で部分冠詞と取るのが正しい解釈です。
つまり、ここでは「ombre」(陰)が「数えられない分量のようなもの」として捉えられています。面積の大小はあっても、べったりとした分量で、数えられないというイメージです。

【訳】
「一本の髪の毛は、いかに細かろうとも、陰をつくる」

【出典】
よくフランスで出ているフランス語の文法書などで取り上げられている言葉ですが、もとは古代ローマのシュルス『金言集』に含まれる次のラテン語の格言に由来します(このフランス語訳です)。

この格言が実際にどのような使われ方をしたのかはわかりませんが、発想としては「一寸の虫にも五分の魂」に似ています。



Glissez, mortels, n'appuyez pas.

この言葉は、もともと18世紀のスケートをする人々を描いた版画の下に添えられた詩の一節です。

  • もとになった絵を描いたのはニコラ・ランクレ (Nicolas Lancret) という 18世紀前半の画家で、これをもとにド・ラルメサン (De Larmessin) という版画家が版画にしたものだそうです(Gallicaの書誌等による)。

大英博物館所蔵の版画を転載します。

Glissez mortels

出典:The British Museum
© The Trustees of the British Museum

この版画の下に、18世紀のピエール=シャルル・ロワ (Pierre-Charles Roy) という劇作家が 4 行の詩を添えています。
これを現代の綴りに直して転記し、訳してみます。

  • Sur un mince cristal l'Hiver conduit vos pas ;
    Le précipice est sous la glace.
    Telle est de vos plaisirs la légère surface.
    Glissez, mortels, n'appuyez pas.

  • 薄いクリスタルの上で、冬があなたたちの歩みを導く。
    ガラスの下は断崖絶壁。
    これが、あなたたちの愉しみの薄い表面。
    滑れ、死すべき者たちよ、つかまるな。

ざっと文法を説明しておきます。

1行目:
l'Hiver(冬)がいわば擬人化され、主語になっています。
conduit は他動詞 conduire(導く)の現在 3人称単数。
pas はここは男性名詞で「歩み」。
vos(あなたたちの)というのは、この絵でスケート遊びをしている人々に呼びかけて使っています。

2行目:
直訳すると、「断崖絶壁はガラスの下にある」。

3行目:
通常の本来の語順に直すと、次のようになります。

  • Telle est la légère surface de vos plaisirs.
    これが、あなたたちの愉しみの薄い表面である。

ところが、実際の詩ではこの la légère surface が後ろにきています。
なぜかというと、こうすることで 2 行目末尾の glace とこの 3 行目末尾の surface が韻を踏むことになるからです(どちらも「アース」という音)。
ちなみに、1行目と4行目は pas という同じ語(同じ音)で終わっています。
ただし、こうした語順の入れ替えは、通常の文章では見かけることはなく、詩でしか目にすることはありません。

4行目:
mortels(死者たち)は、この絵に描かれた人々に向かって呼びかけています。
Glissez と appuyez はいずれも命令形。

全体として、あなたたちの愉しみは、つかのまの表面的なものでしかなく、死と隣りあわせなのだ、つまり「愉しみと死は表裏一体で、薄い氷で隔てられているだけだ」というような意味に解釈できます。

とくに 4 行目の「滑れ、死すべき者たちよ、つかまるな」という言葉は、いわば人間という存在の危なっかしさを、スケートをする人の不安定さに重ね合わせているようでもあり、名言として知られています。

とくに、20 世紀の哲学者サルトルの主著『存在と無』や自伝『言葉』で引用されているのが印象的です。



La vie est faite de rencontres.

【単語の意味と文法】
「vie」は女性名詞で「人生、生活、生命」。
「faite」は他動詞 faire(作る、行う)の過去分詞 fait に女性単数を示す e がついた形。
「rencontre」は女性名詞で「出会い」。

「est faite」は être + p.p. で受動態

faire は単に「作る、行う」という意味でも使いますが、ここでは

  faire A de B (B から A を作る)

という使い方がベースにあります(つまり間接他動詞(2)のタイプの動詞の使い方)。
この A が直接目的で、B が間接目的です。これを図式化したまま受動態にすると、

  A est fait de B. (A は B から作られる)

となります。つまり、上の文でいうと、「La vie」が A で「rencontres」が B ということになります。

être + p.p. の場合は主語に性数を一致しますが、ここでは主語が女性単数なので過去分詞 fait に e がついています。

意味的に、さまざまな出会いがある(人生はいろいろな出会いで作られている)ということを言おうとしているので、「rencontres」は複数形になっていますが、前に冠詞がついていません。
なぜ無冠詞になっているかというと、前置詞 de の後ろでは不定冠詞の複数の des は必ず省略されるという規則があるからです。つまり、この文は

  × La vie est faite de des rencontres.

の des(不定冠詞の複数)が取れた形だと理解することができます。

この des は、単なる複数だともいえますが、「いろいろな、さまざまな」などの意味が込められている気もします。

【訳】
「人生は(さまざまな)出会いで作られている(できている)」

この言葉は、誰が言い出したのか調べていませんが、個人的には 25~30 年ほど前にふつうの(教養のある、しかし無名の)フランス人が使っていたのが強く印象に残っており、ときどき思い出します。

この「rencontres」の部分に、他の名詞(複数形)を入れれば、いろいろな表現が可能です。たとえば、

  • La vie est faite de hasards.
    人生は(さまざまな)偶然でできている。

  • La vie est faite de choix.
    人生は(さまざまな)選択でできている。

  • La vie est faite de surprises.
    人生は(さまざまな)驚きでできている。

  • La vie est faite de souvenirs.
    人生は(さまざまな)思い出でできている。

あるいは、ネガティブな言葉にするなら、たとえば

  • La vie est faite de séparations.
    人生は(さまざまな)離別でできている。

  • La vie est faite de déceptions.
    人生は(さまざまな)失望でできている。

  • La vie est faite de compromis.
    人生は(さまざまな)妥協でできている。

どのような言葉を入れるかで、その人の人生観が(少し)わかってしまいます。



















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